ポスター発表
P-R-10
マスキングされた問題を考える
―視覚の問題とともに一人の人間の心理発達を支えた経験からの一考察―
○中津大介
東京都視覚障害者生活支援センター
【目的】
視覚障害当事者が抱える問題は本来視覚の障害に由来する問題のみではないが、視覚の問題が存在することで、本人や周囲にその他の問題がマスキングされ覆い隠されることがあることをしばしば経験する。本研究では、マスキングされた心理的発達課題へのサポートが有効であった事例を通して、マスキングされた課題への取り組みが機能訓練に促進的な役割を果たすことを示す。
【方法】
Wolfram症候群の23歳女性との全12回の統合的心理療法面接の事例を取り上げ、その面接経過を考察した。
【結果】
面接開始前、歩行訓練が提供されていたが、訓練が進んでいなかった。問題と解決方法が結びつかず、進路決定に混乱があった。心理面接の枠を設定し、目標設定を細分化。先天的疾患に自分の人生が強く影響を受けたことや、自己の価値観に気づきがあり、本人の自己洞察の深まりとともに自ら希望する進路を語るようになった。新しい目標をたて取り組み続けることができ、自己効力感が育まれていた。途中内科的疾患の不安定さを強く訴え、精神的不安定さが再燃した。
【考察】
当初視覚障害の問題に焦点があてられていたが、心理面接開始後はClの自己の体験様式の振り返りや心理発達課題のアイデンティティ拡散の問題に焦点を当てた。疾病治療が幼少期から生じていたことからlocusofcontrolが自己に乏しく、心理発達課題にも影響していることを取り上げ、自己洞察が深まっていった。そのことがアイデンティティ拡散からアイデンティティの確立に向き、進路決定や訓練効果にもよい影響を及ぼしたと考えられた。限定的な介入では精神的な課題の未解決も残った。
【結論】
視覚障害の問題を機能訓練で解決すると共に、マスキングされた課題に焦点を当てることが機能訓練にもよい効果を及ぼす。しかし限定的な介入には未解決の問題を残す危険性も伴うことが示された。
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