【表紙】 第29回視覚障害リハビリテーション研究発表大会in岡山 一般演題抄録集 会期 2021年8月12日 木曜日 から 9月12日 日曜日 まで 形態 オンデマンドWeb 主催 視覚障害リハビリテーション協会 主管 第29回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会in岡山実行委員会 【テキスト版 凡例】 テキスト版にはページ番号の記載はありません。 目次の演題番号と演題名で検索してください。 テキスト文書の特性に合わせて、一部PDF版とは異なる編集をしている部分があります。 【目次】  筆頭演者のみを記載 Ⅰ 点字・触察・パソコン・スマホなど                                         1 6点漢字・漢点字入力フリーソフト「やむ6点」  田邉 正明(日本ライトハウス養成部) 2 高齢視覚障害者への点字訓練 事例報告  原田 敦史(堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター) 3 視覚障害者と老若男女誰もが触って理解・鑑賞できる「ユニバーサル触図」の研究開発  安田 輝男(国立大学法人 筑波技術大学、触覚伝達デザイン研究会) 4 視覚障害者の触察による立体造形作品鑑賞に関する調査研究  守屋 誠太郎(筑波技術大学) 5 視覚障害分野での3Dプリンター活用の動向  大内 進(星美学園日伊総合研究所) 6 視覚障害者のタッチスクリーン端末訓練 文字入力における入力速度到達度の評価  鈴木 絵理(七沢自立支援ホーム) 7 視覚障害者のスマートフォン操作訓練 全盲利用者の訓練事例  内野 大介(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム) Ⅱ 歩行                                                              8 ロービジョンの短期留学生に対して市立大学と歩行訓練士が協働し実施した支援 三浦 久美(北九州市立介護実習・普及センター) 9 羽田空港単独利用に必要なOM技能に関する考察 小林 章(社会福祉法人 日本点字図書館) 10 強度弱視者の歩行指導に関する事例研究 指導者の言葉かけと訓練生の気持ちに着目して 高嶋 麻矢(愛知県立名古屋盲学校) 11 視覚障がい者の駅ホームからの転落と誘発要因 白杖歩行中の事例について 大倉 元宏(成蹊大学 地域共生社会研究所) 12 安全教室における駅ホーム上の歩行訓練の取組についての報告 歩行訓練士の立場から 堀内 恭子(日本ライトハウス養成部) 13 周囲の床面と視覚障害者誘導用ブロックの触覚的コントラストに関する研究 青木 隆一(日本歩行訓練士会、千葉県教育庁教育振興部特別支援教育課) 14 屋内利用を考慮した視覚障害者誘導用ブロックの導入とその有効性に関する検討 高戸 仁郎(岡山県立大学) 15 視覚障がい者の単独歩行に必要な空間情報についての研究 吉岡 学(金沢大学附属特別支援学校) 16 自由歩行時における白杖使用中の上肢筋活動 清水 順市(東京家政大学 健康科学部) 17 スマートフォンによる歩行者用信号機検出の基礎研究 中島 滉太(舞鶴高専 電気情報工学科) 18 盲導犬歩行に対する調査と今後の課題 斉之平 真弓(鹿児島大学 眼科) Ⅲ 視覚特別支援学校における歩行指導                                    19 事例1 先天性視覚障害児への触地図を使った室内の歩行指導における担任との連携 丹所 忍(兵庫教育大学) 20 事例2 専門スタッフ強化事業を活用した歩行指導担当者との協働と教員研修会の実施 武田 貴子(北九州市立介護実習・普及センター) 21 事例3 児童生徒の歩行指導における「基礎的歩行能力個別課題整理表」の作成と活用 堀江 智子(公益財団法人 日本盲導犬協会 富士ハーネス) 22 歩行訓練士の継続的なコンサルテーションによる歩行指導 山本 敬子(元静岡県立静岡視覚特別支援学校) Ⅳ 教育                                                               23 点字学習を検討していた就学前の視覚障害児に墨字学習を試みた一例 安山 周平(堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター) 24 大学入試にむけたロービジョン生徒への支援 拡大読書器利用の2事例報告    田中 恵津子(浜松視覚特別支援学校、愛知淑徳大学) 25 視覚障害児童・生徒の卒業後のキャリアアップのための効果的な支援や取り組みの分析 刀禰 豊(岡山東支援学校、チーム響き) 26 視覚障害領域における免許法認定講習の実施状況と課題 中嶋 克成(徳山大学福祉情報学部) Ⅴ 医療・心の健康                                                      27 急性期病院(アイセンター)での関わりがロービジョンケアに繋がった患者の1例 岩村 亜紀(埼玉医科大学病院) 28 MP-3を用いた偏心視訓練を試みた1例    福田 洋貴(島根大学病院 眼科) 29 病院内の掲示案内を見やすく環境改善した取り組み 小谷 真弘(北野病院、近畿ロービジョン研究会) 30 島根大学医学部附属病院ロービジョン外来の現状と課題 加藤 加奈絵(島根大学医学部 眼科学教室) 31 KVS ORTサロンの歩み 眼科医療とリハビリテーションの架け橋に 上野 絵理香(きんきビジョンサポート、平島病院) 32 就労場面でのヘッドホン等の利用と聴力低下に関する課題提起 ヒアリング調査より 伊藤 丈人(障害者職業総合センター) 33 健常な保有視覚の利用を困難にする「眼球使用困難症候群」への取り組み 荒川 和子(NPO法人 目と心の健康相談室) 34 眼球使用困難者に対する情報提供についての活動報告 能戸 幸恵(みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会(G-frontier)) 35 ロービジョン者の買物環境調査からわかる課題と「心」の問題 谷川 ふみえ(筑波技術大学) 36 視覚障害者の心身の不調とスクリーニング こころとからだの質問票を用いた考察 中津 大介(東京視覚障害者生活支援センター) 37 鹿児島心の健康講座  実践報告Vol. 8 良久 万里子(鹿児島県視聴覚障害者情報センター) Ⅵ 生活・余暇・スポーツ                                                  38 ロービジョンの高齢利用者へのデイサービス施設での配慮の試みとその成果報告    吉野 由美子(視覚障害リハビリテーション協会) 39 「見えない・見えにくい人のためのメイクレッスンヒント集」の完成    道面 由利香(横浜訓盲院 生活訓練センター) 40 盲ろう者の余暇活動充実のための訓練 聴覚言語相談員・手話通訳者との連携 古場 かおり(長崎市障害福祉センター) 41 機織り訓練の導入を契機として積極的にロービジョンケアに取り組むことができた3例    岡﨑 あずさ(国立障害者リハビリテーションセンター病院 リハビリテーション部) 42 「みないろ会」活動報告 みんなでいろんな映画を見たいからバリアフリー映画をつくる会    南 奈々(みないろ会、たかだ電動機株式会社視覚障害者支援部てんとうむし) 43 視覚障がい者に対する文化施設アクセシビリティ向上の取組 岡島 喜謙(羽二重ねっと、福井県立盲学校) 44 視覚障害者スキーの現状 プロボノと連携した広報ビデオの作成を通して 矢部 健三(神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム) 45 広島での交流型クライミングイベント活動報告について 粟崎 宏文(呉医療センター 眼科) 46 チャレンジド・ヨガ研修部の活動報告 共に生きる社会を目指す取り組み 澤崎 弘美(いけがみ眼科整形外科、一般社団法人 チャレンジド・ヨガ) Ⅶ オンラインの取り組み                                                47 遠隔ロービジョン相談後の報告メールを材料としたテキストマイニング解析 仲泊 聡(理化学研究所) 48 リモートでの見えない 見えにくい方のためのiPhone・ iPad教室の試み 加茂 純子(甲府共立病院) 49 コロナ禍におけるオンライン訓練の取り組み    山本 友里瑛(堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター) 50 コロナ禍におけるICTを活用した相談・情報提供 山田 千佳子(NEXT VISION) 51 当事者、支援者、行政職員を対象にしたオンラインによる情報提供の有用性について 金井 政紀(公益財団法人 日本盲導犬協会) 52 オンライン形式に移行して考える当事者団体の活動の意義 石原 純子(認定NPO法人 タートル) Ⅷ 連携                                                               53 高次脳機能障害と視覚障害の重複障害者への視覚リハの一例 松枝 孝志(名古屋市総合リハビリテーションセンター 視覚支援課) 54 眼科が起点となり福祉、教育、就労機関の地域連携から自立に向けて歩み始めた一症例 長尾 長彦(くらしき健康福祉プラザ 視能訓練室) 55 京都ロービジョンネットワークの相談活動から見えてきたもの 鈴木 佳代子(京都府視覚障害者協会) 56 世田谷区における見えない・見えにくい方への公民連携による支援システム整備 木村 仁美(世田谷区立保健センター 専門相談課) 57 福島県職員が歩行訓練士として活動開始! 1年目の事業報告 渡邊 純代(福島県障がい者総合福祉センター) Ⅸ その他                                                            58 京都ライトハウス鳥居寮における就労対策の試み 石川 佳子(京都ライトハウス鳥居寮) 59 障害者手帳所持者における国連国際障害統計ワシントングループ会議の指標の選択状況 北村 弥生(元国立障害者リハビリテーションセンター研究所、長野保健医療大学) 60 第三回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール開催報告 神田 信(株式会社 三城) 61 高齢視覚障害者リハビリテーション事例研究分科会活動報告(第3報) 吉野 由美子(視覚障害リハビリテーション協会 高齢視覚障害者リハビリテーション事例研究分科会) Ⅹ 抄録作成支援について                                               【Ⅰ 点字・触察・パソコン・スマホなど(1~7)】 1 6点漢字・漢点字入力フリーソフト「やむ6点」 ○田邉 正明 1)、山西 賢二 2) 1)日本ライトハウス養成部、2)パソコン教室やむ 【緒言】漢字の点字として長谷川貞夫氏によって6点漢字、川上泰一氏によって漢点字が考案され、視覚障害者で漢字を学びたいという人たちによって利用されている。当初6点漢字はパソコン入力、漢点字は書物を読む目的が主であったが、パソコンが大衆化されたことによって、6点漢字、漢点字ともに漢字入力手法のひとつとして利用されるようになった。  漢字入力はローマ字で「かな」を打ち込み、漢字変換をするのが一般的な方法であるが、6点漢字・漢点字入力をすると漢字変換の必要なく直接入力でき、入力速度が速くなる特徴がある。そのため、6点漢字は会議録を文書におこす仕事に有用とされている。  6点漢字・漢点字入力が可能な市販ソフトとしては、現在、高知システムのKTOS、ニューブレイルシステムの「でんぴつ」が発売されているが、フリーソフトのニーズがあり、開発が望まれた。 【活動提示】パソコン教室やむが「やむ6点」をフリーソフトとして公開した(http://www.pcyam.com/game2/yam6ten/hp/index.htm)。入力可能な漢点字は12034字(漢点字と補助漢字を合わせ、ユニコードが割り当てられていない、つまりパソコンで表示できない漢字を削除した件数)で、日本漢点字協会の「川上漢点字・補助漢字編」を参照した。6点漢字は6349字(第一水準、第二水準を合わせたもの)で、コアライフ六点漢字の会の「よく解る6点漢字の本」、6点漢字協会の「6点漢字ハンドブック」を参照した。 【考察】点字を入力するためには同時入力可能なキーボードを用意する必要がある。特に漢点字を入力するには8個のキーを同時に入力できるキーボードを用意する必要がある。しかし、「やむ6点」は視覚障害者でなくとも市販のワープロソフトとともに利用でき、晴眼者でも漢字を含めた高速入力が可能となるため、ユーザーの拡大が図られると思われる。 2 高齢視覚障害者への点字訓練 事例報告 ○原田 敦史、安山 周平、山本 友里瑛 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 【緒言】中途視覚障害者には点字触読の習得に大きな困難を抱えるケースが多い、と言われる。さらに、50歳代以降の中途視覚障害者は習得が著しく困難になると報告されている。今回、初めて80歳代の人に訓練をしたが、良好な結果が得られたので、参考事例として報告する。  【症例報告】訓練開始時は83歳。妹と二人暮らし。網膜色素変性症で身体障害者手帳は当初5級、85歳時に1級に等級変更。現在87歳。  2017年9月に相談電話があり対応。その後、他県へ引っ越しする2020年3月までに合計60回、訪問により相談・訓練を実施した。  最初は拡大読書器を利用できないかという相談であった。選定の結果、据え置き型を申請し、操作訓練を5回実施した。移動にも不安があるということで白杖を選定し、基本的な操作訓練を3回実施した。その後、点字を読んでみたいという希望があり17年10月に訓練開始。18年2~4月は家庭の事情で中止したが、それ以外は毎月平均2回訪問し、1回につき60~90分程度の訓練を50回実施した。  高齢のため、導入しやすいL点字で訓練を開始。最初の8回はメの字の触り方・指の動かし方・行たどりを実施。その後、1回の訓練で1~2文字増やしていく形で、清音は19年8月、38回目で習得。その後は濁音・拗音と進み、42回目には童話の内容を理解して読むレベルに到達した。この時点で標準点字を導入し、問題なくスムーズに移行した。 【考察】当施設の訓練は指定管理業務の中で実施しており、訓練期間・回数に制限は設けていない。点字の触読の習得には時間がかかるため、本人の意識も重要だが、期限を設けず実施できたこと、マンツーマンで本人のペースで実施できたことが、「読める」に至った要因だと考える。高齢者には無理して点字訓練をせず、便利な機器の提案を行うこともあるが、時間をかけてニーズに寄り添うことが必要である。本例は現在も点字を楽しんでいる。 3 視覚障害者と老若男女誰もが触って理解・鑑賞できる「ユニバーサル触図」の研究開発 ○安田 輝男 1,2)、飯塚 潤一 1)、安田 孝子 2)、市川 あゆみ 1) 1)国立大学法人 筑波技術大学、2)触覚伝達デザイン研究会 【背景】本学は、視覚もしくは聴覚に障害のある人の為の大学である。聴覚障害の学生が創ったポスターを、視覚障害の学生も鑑賞できないかと思ったのが、「触って観る」アート研究の発端である。  2020年の東京パラリンピック・オリンピックに向けて、様々な国から多数の人たちが日本にやって来る。その人たちに、視覚に障害のある人にも「手で触って理解・鑑賞できる」五輪や日本の色々なシンボルマークを見てもらうことは大変意義があり、視覚もしくは聴覚に障害のある人の為の本学・筑波技術大学にとっても有意義なことと考える。 【活動】2002年に、本学デザイン学科の学生(聴覚障害)が制作し二科展デザイン部門で入選したポスターを、モノクロ版で立体化(触知化)し、「触って観る」ポスターを作成した。2012年にはカラー版も完成した。  2007年以降、二科会関連、茨城県立盲学校、本学学園祭等の展示会場で、より理解、鑑賞しやすい「触って観る」アートに関してのアンケート調査等を実施し、改善を重ねた。  この成果は、感性工学会、芸術工学会、ロシアノボシビルスク学会、ノボシビルスク州立点字図書館、視覚障害リハビリテーション発表大会、日本ロービジョン学会学術総会、日本広告学会、タイバンコクラチャスダ国際障害者学会等で発表した。 【発表目的】この度、「触図化」したい美術作品や授業で使用するカラー解剖図等を選定し、触図制作の為の特殊用紙(カプセルペーパー)と立体コピー(PIAF)を使用して「ユニバーサル触図」を制作した。さらに精巧な「触図」を制作する為に、視覚に障害のある人に実際に触っていただき、アドバイスや意見をいただきたい。 4 視覚障害者の触察による立体造形作品鑑賞に関する調査研究 ○守屋 誠太郎、飯塚 潤一 筑波技術大学 【目的】視覚障害者が彫刻・工芸などの立体作品を鑑賞する際、形状や素材感をどのように理解し、鑑賞しているのか明らかでない。そのため、本研究では美術館利用に関する全般や触察鑑賞に関するアンケート調査を行い、視覚障害者の触察鑑賞に適した作品の大きさや素材について明らかにする。 【方法】質問紙調査とサンプル作品を用いた鑑賞アンケート調査を実施した。サンプル作品は大35cm、中14cm、小7cmの3段階のスケールサイズ、14cmモデルのゴム、石膏、樹脂の3種類の素材を用意した。 ・調査期間:2019年8月26日~9月2日 ・研究対象者:ヘレン・ケラー学院の利用者20名(ロービジョン者5名、全盲者15名)  注:ロービジョン者は矯正視力0.3以下、視野狭窄、全盲者は指数弁以下を指す。 【結果】 質問紙調査 (1)美術館の利用頻度は「数年に1回」が54%、「年1,2回」が23%、「行かない」が23%であった。 (2)「触察の体験がある」のは67%であった。 (3)触察の対象となる作品は「立体作品」が91%であった。 (4)音声ガイドのニーズはロービジョン者が40%、全盲者が93%であった。 (5)点字資料のニーズはロービジョン者が40%、全盲者が73%であった。 触察鑑賞アンケート調査 (1)形状理解   サイズでは「大」が95%、素材では「樹脂」が78%で最良であった。 (2)肯定感(好み、良さ)   サイズでは「大」が45%、素材では「樹脂」が75%で最多であった。 触察時の様子 (1)まず、触察開始時は手のひらで全体の形状把握をする傾向が見られた。 (2)次に、指先で細部形状を確認する傾向が見られた。 (3)終盤には、形がわかりやすいと感じるものと他のものを比較する傾向が見られた。 【考察】美術館の利用頻度の向上には、音声ガイド、および点訳資料の提供を拡充することがとくに全盲者で有効と考える。  作品のサイズは「大」が、素材は「樹脂」が、形状理解と肯定感で優れており、サイズや素材が触察に大きく影響することがわかり、1つの目安を示すことができたと考える。  今後は、触り方の傾向を参考にして、作品のパターンを変えた鑑賞実験を進めていく。 5 視覚障害分野での3Dプリンター活用の動向 ○大内 進 星美学園日伊総合研究所 【目的】視覚活用に制約があると、視覚以外の感覚による情報収集が一層大切になってくる。近年、視覚障害者のための模型やモデル等の作成に3Dプリンターが活用されるようになってきている。その活用の動向を文献により明らかにする。 【方法】国内外で刊行されている文献を検索し、「3Dプリンター、視覚障害」を含む文献を抽出し、それらの中から視覚障害者向けの立体物造形に関する研究を選定し、それぞれの研究内容を分析、整理した。 【結果】触地図、教科教育用触覚教材、文化遺産、アート、手でみる絵本などで、視覚障害者向けの3Dプリンター活用が進んでいることが確認できた。触地図では、半立体的な地形図や歩行地図を簡便に生成する方法として3Dプリンターが活用されていた。教科教育用触覚教材では、欧米において、とくに地理歴史や理数系の分野での3Dプリンターによる触覚教材の作製が進んでいた。文化遺産関係では、博物館や美術館が所蔵する資料の3Dデータ化を加速させていた。スミソニアン博物館など一部の施設では、それらのデータ公開を開始していた。アートの分野では、絵画鑑賞サポートをするために、2次元画像の3D翻案が試みられていた。子ども向けには、3Dプリンターを活用した手でみる絵本の製作も試みられていた。 【考察】視覚障害分野でも触覚活用を前提とした3Dプリンターによる立体物造形が進んでいることが確認できた。しかし、品質やコストの面からは、まだ一般に期待されているようなレベルには至っているとはいえない。品質面では、強度、表面加工などの課題がある。また、視覚障害者にアクセシブルな3Dデータの作成に向けての共通理解も急務であり、この面ではデザインガイドラインの策定が期待される。 6 視覚障害者のタッチスクリーン端末訓練 文字入力における入力速度到達度の評価 ○鈴木 絵理、内野 大介、小野 正樹、末田 友平、矢部 健三 七沢自立支援ホーム 【目的】スクリーンリーダを用いてスマートフォンで文字入力を行う際、どの程度の入力速度を習得できるか、それにはどの程度の訓練期間が必要なのかを明らかにする。 【方法】2017~2020年に七沢自立支援ホームで、タッチスクリーン端末に標準搭載されているスクリーンリーダ機能を使い、文字入力訓練を実施した利用者17名について、訓練記録等を参照した。内容は、基本属性、訓練期間および回数、入力方法、入力速度等である。 【結果】平均訓練期間は88.9日、平均訓練回数は19.3回。使用端末は、iPadが5名、iPhone(iPod touch)が12名。使用したスクリーンキーボードは、「日本語かな」が15名、「日本語ローマ字」が2名。入力方法は、「標準」が6名、「タッチ」が10名で、「スプリットタップ」が1名である。  文字入力速度(文字/分)の平均は5.4。使用端末で比較すると、iPhoneでは5.0であるのに対し、iPadでは6.3。入力方法で比較すると、「標準」では3.8であるのに対し、「タッチ」では5.9、「スプリットタップ」では9.6。障害等級で比較すると、1級では4.8であるのに対し、2級以下では6.4。年齢で比較すると、55歳未満の者では6.0であるのに対し、55歳以上の者では4.8である。 【考察】使用端末で平均入力速度を比較すると、iPhoneに比べiPadが速く、また障害等級で比較すると、1級の者に比べ2級以下の者が速かった。これは視覚的にキーボードを確認できるかどうかによって差が生じたものと考えられる。また、入力方法では、「標準」に比べ「タッチ」が速く、これにはタップ回数の少なさが影響したものと思われる。「スプリットタップ」は今回1名のみだが最速であり、iPhoneでの「標準」や「タッチ」はイ段以降を入力する際にフリックを使用するため、その分の差が出たと思われる。 【結論】視覚障害のある人のタッチスクリーン端末での文字入力は、3ヶ月程度(約19回)の訓練によって約5文字/分の入力速度を習得できた。 7 視覚障害者のスマートフォン操作訓練 全盲利用者の訓練事例 ○内野 大介、小野 正樹、鈴木 絵理、矢部 健三 神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム 【緒言】視覚障害者がiPhone等のスマートフォン(以下、スマホ)の操作を学ぶ機会として、Appleや携帯電話大手キャリア等が実施する講習会がある。紹介と体験を目的にしているため、視覚障害者でICT機器が苦手な場合、習得するためには別途練習が必要になる。  本報告では、七沢自立支援ホーム(以下、当施設)の訓練を受けることで、スマホの操作が可能になった全盲利用者の訓練状況を報告し、視覚障害者がスマホの操作を習得するためには何が必要であるかを明らかにしたい。 【症例提示】30代半ばで全盲になり身体障害者手帳1級を取得した、40代の利用者である。数年前にiPhoneを購入し、スマホの講習会を受講した。ICT機器が苦手だったこともあり、うまく使えるようにならず、携帯電話の使用を継続していた。スマホへの移行を目標に当施設の通所利用を開始した。  利用期間は約8ヶ月間、訓練回数は計94回(1回40分)であった。初期は、画面読み上げ機能(以下、VoiceOver)での操作訓練を21回実施した。VoiceOverと音声入力によりYouTube等の利用が可能になったが、ジェスチャー操作のミスが目立った。中期は、多くの視覚障害者が苦手とする文字入力の訓練を29回実施し、Safariの検索キーワード等の入力が可能になった。終期は、希望するアプリ(Yahoo乗換案内、Amazon等)の操作訓練を44回実施し、情報収集や買い物等が可能になった。自宅で操作する頻度が増えることで生じる疑問点に対して、毎回の訓練でフィードバックを行った。結果として、携帯電話を解約してスマホに移行できた。 【考察】ICT機器を苦手とする視覚障害者がスマホの操作を習得するためには、反復練習が効果的であることがわかった。また、疑問点に対して気軽に質問できる機会として、当施設の訓練が有効に機能したことで、意欲を維持し学習効果を高めることができた。今後も視覚障害者のICT習得に寄与したい。 【Ⅱ 歩行(8~18)】 8 ロービジョンの短期留学生に対して市立大学と歩行訓練士が協働し実施した支援 〇三浦 久美 1)、武田 貴子 1)、桂 啓子 2)、溝脇 恵子 2) 1)北九州市立介護実習・普及センター、2)北九州市立大学 国際教育交流センター 【緒言】北九州市立大学は交換留学協定を締結しているイギリスの大学からロービジョンの短期留学生を受け入れることになった。大学はロービジョン留学生の受入実績がなかったことから市の障害福祉センターに相談し、その結果、市立介護実習・普及センターで中途視覚障害者緊急生活訓練事業を担当する歩行訓練士が訓練事業利用者として留学生を支援した事例を報告する。 【活動提示】来日の約1か月前から障害福祉センター職員、大学の国際教育交流センター職員、事業担当の歩行訓練士の三者で調整を開始した。歩行訓練士は留学生の視覚障害の状態や来日後のスケジュールに関する情報提供を大学より受け、訓練ニーズの予測や訓練日程について事前に検討した。北九州到着当日に行ったアセスメント面接の結果、本人が必要な訓練は歩行訓練だけであることが判明したが、授業開始の都合上、1週間以内に大学生活で最低限必要な場所の環境認知を完了しなくてはならなかった。また夜盲に配慮した夜間訓練も実施する必要があった。大学側も新入生向けオリエンテーションを実施しており、本人に負荷をかけ過ぎないように訓練時間を確保するため、通常は訓練を実施していない土日祝日にも対応する等配慮した。大学の担当職員や日本人学生のチューターにも訓練に同席してもらい、ロービジョン者が何に困るのかを説明し、移動時の介助方法の指導や学内の環境整備への提言も行った。訓練は1回あたり約2時間で全5回実施し、留学生は約1年間の学生生活を無事に終え、2019年8月に帰国した。 【まとめ】本市が実施する中途視覚障害者緊急生活訓練は、市内に居住する視覚障害の身体障害者手帳所持者や難病の人を対象としたサービスであり、本来なら当該学生は対象外である。当事例では、訓練を所管する北九州市保健福祉局が柔軟に判断したことで、歩行訓練士による専門的な支援に繋がり、成果を上げることができた。 9 羽田空港単独利用に必要なOM技能に関する考察 ○小林 章 社会福祉法人 日本点字図書館 【緒言】地方から上京する親戚や友人を迎えに行くことを目的に羽田空港国内線到着ロビーまでの訓練を希望した視覚障害者が、訓練過程で希望が広がって、出発ロビーの利用までもが可能になった。この研究は、羽田空港国内線ターミナルを視覚障害者が単独利用するために必要なOM技能を考察することである。 【症例提示】対象者は錐体杆体ジストロフィーで視野損失率95%以上、視力右0.01、左指数弁、1962年生まれの女性で、移動時に視覚的な手掛かりはほぼ利用できない。2014年に視覚障害で5級、2018年に1級の身体障害者手帳を取得している。ピアニストおよびピアノ指導者の職歴がある。  2019年12月から2020年4月まで、週1回2時間の歩行訓練を受講し、自身が受診する病院、銀座歌舞伎座、東京オペラシティ、東京駅等を一人で利用できるようになった。羽田空港の訓練は2020年1月30日から3月6日にかけて6回行い、JR池袋駅から品川駅経由で、京急羽田空港国内線ターミナル駅で下車し、羽田空港国内線第1および第2ターミナルの到着ロビーと、第1ターミナルの南北両ウィング出発ロビーの利用が可能になった。  ターミナル駅からターミナルまでの移動は直線的であり、他の空港利用客が移動する時に生じる音を手掛かりにすることで、比較的容易だった。エスカレーター(以下、ESC)と点字ブロック沿いにある柱との位置関係を覚え、柱は障害物知覚、ESCの定位はクロックポジションとESCの発する機械音により可能だった。出発ロビーのエントランスの発見は、ロビーの出入口やESCホールとの相対的な位置関係で定位できた。ロビーやESCホールは空間の広がりを聴覚的に定位することが可能だった。 【考察】フロア間の移動はESCの利用が便利だが、ESCへの点字ブロックによる誘導は期待できない。羽田空港を利用するためには、聴覚的情報を有効に活用でき、かつ正確な方向取り、直進移動の安定性を獲得することが重要である。 10 強度弱視者の歩行指導に関する事例研究 指導者の言葉かけと訓練生の気持ちに着目して ○高嶋 麻矢 1)、青柳 まゆみ 2)、松枝 孝志 3) 1)愛知県立名古屋盲学校、2)愛知教育大学、3)名古屋市総合リハビリテーションセンター 【目的】弱視者への歩行指導には、保有視覚の有効な活用を促すといった、全盲者への歩行指導にはない技術が求められる。しかし、指導書や先行研究には弱視者への歩行指導に特化して具体的に書かれているものが少ない。そこで本研究では、歩行指導の専門家である歩行訓練士による弱視者への歩行指導1事例を分析し、効果的な指導や言葉かけ、当事者の成長の過程を整理して、盲学校教員や寄宿舎指導員が歩行指導をする際の一助とすることを目的とする。 【方法】対象:強度弱視男性1名(視力:右0.02、左0.03)。訓練開始の約1年前、交通事故の外傷により視力が低下し、リハビリテーションセンターに来院。 期間:歩行訓練は201X年8月~201X+1年2月に計11回実施され、第4回~第10回の計7回を観察した。 手続き:訓練の様子をビデオとボイスレコーダーで記録し、歩行訓練士の指導内容や言葉かけ、訓練生の発言やつまずきなどを分析した。また、毎回訓練後に指導者と訓練生双方にインタビューを行い、訓練の観察では見えてこなかった歩行訓練士の考えや訓練生の内省を調査した。 【結果】弱視者の歩行の課題として特に目立ったのは恐怖心であった。指導者が「つまずき」と認識していなくても、訓練生は人の多い場所や空間などで恐怖を感じていたことがわかった。一方、訓練を重ねていくことで、そのような恐怖心や不安が解消されていくことも確認できた。 【考察】弱視者への歩行指導では、それぞれの見え方にあった手がかりを使えるような指導が必要であることが再確認された。個々の異なる見え方については、天候や場所によっても変わるため、視機能のような数値ではなく、その場その場で実態を把握することが重要である。弱視者の歩行において視覚は最大限に活用すべきだが、視覚に頼り過ぎてしまうと見たいのに見えない不安を強く感じると予想される。 11 視覚障がい者の駅ホームからの転落と誘発要因 白杖歩行中の事例について ○大倉 元宏 成蹊大学 地域共生社会研究所 【目的】最近の転落死亡事故の多発に鑑み、ホームドアによらない対策を検討した。転落の直接的原因はホーム端や車両存在の未確認にあるが、そこに至るまでに様々な誘発要因があり、それらの影響を抑えることで未然防止につながると考えた。 【方法】19の転落事例において誘発要因を抽出して、発生頻度を移動方向(長軸/短軸)と乗車/降車の別に集計し、本人の意識づけで避け得るものとそうでないものに分けた。 【結果】抽出された32の誘発要因は「いつもと異なる事態」「白杖の不適切操作」「リスキーな行為」「心理的あせり」「状況誤認」「障がい固有の歩行特性」「他課題の割り込み」および「予想外のホーム構造」の8つに分類された。 ・「いつもと異なる事態」「白杖の不適切操作」は長軸/短軸、乗車/降車によらず発生した。 ・「リスキーな行為」「心理的あせり」「状況誤認」は短軸移動での乗車の際に多発した。時間的な余裕のなさから「心理的あせり」が惹起され、安全な乗車手順のスキップという「リスキーな行為」に結びついた場面が多くみられた。 ・偏軌傾向などの「固有の歩行特性」による定位喪失は長軸移動の際に発生した。 ・本人の意識づけで避け得る要因として「白杖の不適切操作」「リスキーな行為」「心理的あせり」および「いつもと異なる事態」と「他課題の割り込み」の一部があげられた。 ・避けられない要因として「状況誤認」「固有の歩行特性」「予想外のホームの構造」および「いつもと異なる事態」と「他課題の割り込み」の一部があげられた。 【考察】対策として、長軸移動では乗車/降車によらず「ホーム端を歩かない」「ホーム端に寄った場合の注意喚起」、短軸移動で乗車の場合には「車両が存在しない場合の注意喚起」、降車の場合には「ホームの長軸中央部を知らせる」などがあげられる。併せて、白杖の常時接地操作、余裕をもった行動計画なども求められる。 12 安全教室における駅ホーム上の歩行訓練の取組についての報告 歩行訓練士の立場から ○堀内 恭子 日本ライトハウス養成部 【緒言】視覚障害者の駅ホームからの転落事故が後を絶たない。  国土交通省(2020年11月~12月調査)によると、298名中(踏み外しを除外)転落経験、ヒヤリハット経験は190名(63.8%)にも及び、駅ホーム上の歩行訓練は、303名中143名(47.9%)が受講していなかった。  国土交通省では、2020年10月から「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」を開催し、転落事故防止のための対策が議論されている。  新技術の一つであるラインアプリを活用した介助要請の実証実験が国土交通省主体で行われることとなった。駅ホーム等に触れる体験を行う安全教室も開催され、その中で実施した歩行訓練について報告する。 【活動提示】 (1)開催概要  日時 : 2020年3月4日(木)、5日(金)9時50分~13時(内歩行訓練時間約40分)  場所 : 阪神電車大阪梅田駅、武庫川駅  参加者 :各日 視覚障害者3名、歩行訓練士3名 (2)安全教室の流れ  1)介助要請アプリを利用した移動(大阪梅田駅・武庫川駅間)  2)駅ホーム、車両等に触れる体験(武庫川駅)  3)歩行訓練(大阪梅田駅)   1.駅ホームからの転落事故要因・防止の為の歩行訓練について説明   2.駅ホーム上の歩行訓練   ・常置設置法(スライド法)の指導   ・短軸方向:白杖の落ち込みで停止する指導   ・長軸方向:白杖の落ち込みで停止する指導   ・白杖を置いた位置より前に足を置く指導"   3.電車乗降訓練 【考察】今回参加の当事者は電車乗降等の歩行訓練の受講経験のある者であったが、白杖の振り幅が狭い、歩行速度が速い、電車乗降時に白杖より前方に足が運べていないなどの課題が見られた。歩行経験による歩行方法の変化が推測され、定期的に再確認する必要性を感じた。  短時間の歩行訓練で技術が定着する訳ではないが、一人でも多くの当事者に駅ホーム上の歩行方法、電車乗降技術を伝えること、歩行訓練の受講につなげることが転落事故防止に寄与すると考えられた。鉄道事業者への啓発も大きな意味を持つと感じた。 13 周囲の床面と視覚障害者誘導用ブロックの触覚的コントラストに関する研究 ○青木 隆一 1,2)、澤村 実希 1,3)、武田 貴子 1,4)、谷 映志 1,5)、古橋 友則 1,6)、堀内 恭子 1,7)、松下 昭司 1,7) 1)日本歩行訓練士会、2)千葉県教育庁教育振興部特別支援教育課、3)川崎市視覚障害者情報文化センター、4)北九州市立介護実習・普及センター、5)国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局神戸視力障害センター、6)NPO法人 六星 ウイズ蜆塚、7)日本ライトハウス養成部 【目的】周囲の床面と視覚障害者誘導用ブロック(以下、ブロック)の触覚的コントラストに焦点を当て、視覚障害当事者の意見を反映させ、その実態と課題を明らかにする。 【方法】(1)歩行訓練士(以下、訓練士)234名、視覚障害当事者81名を対象に、触覚的コントラストに問題が有ると思われるブロックに関するアンケート調査を実施した。  (2)13名の視覚障害当事者による現地調査と聞き取り調査を実施した。 【結果】(1)訓練士対象のアンケート調査  挙げられた問題がある箇所の画像は,駅ホームと交差点の計96枚,64か所あった。触覚的コントラストを低くしている原因が「周囲の床面」にあるとする箇所が最も多く、その素材は、駅ホームではタイル、交差点ではインターロッキングが最多だった。 (2)当事者対象のアンケート調査   伝いにくい場所の具体事例は119か所挙がった。場所と理由が対応していない回答もあったが、伝いにくい理由は、「周囲の床面とブロックの違いがはっきりしない」32か所、「周囲の床とブロックの高さの違いがはっきりしない」33か所、その他43か所であった。  その内の15か所について訓練士が現場を確認したところ、ブロックそのものの劣化や敷設方法の問題も多く、課題が複合的であることがわかった。 (3)当事者による現地調査  周囲の床面がインターロッキングとコンクリートでは分岐を発見する所要時間に有意差はなく(t検定, p=0.089)、聞き取り調査ではわかりやすさに有意差がみられた箇所があった(χ2検定,p=0.022)。 【考察】周囲の床面がインターロッキングでブロックがコンクリートの場合に触覚的コントラストが低くなる可能性が示唆されたが、より精査していく必要がある。ブロックの規格もさることながら、周囲の床面の状況や環境など広範囲にわたってブロックが活用できるかを検討することが重要であると思われた。 なお、本研究は(公財)交通エコロジー・モビリティ財団の助成を受けた。 14 屋内利用を考慮した視覚障害者誘導用ブロックの導入とその有効性に関する検討 ○高戸 仁郎 1)、伊勢 菜摘 1)、田内 雅規 1,2) 1)岡山県立大学、2)モビリティ研究所 【目的】杖や車いす等の歩行補助具利用者が増加し、視覚障害者誘導用ブロックがバリアになる場合も考えられる。近年、これらの通行者へのインパクトを低減した屋内利用限定の視覚障害者用屋内歩行路(屋内歩行路)が開発され設置も始まっているが、効果や安全性の検証が十分ではない。本研究では屋内歩行路をレビューし、一部について性能評価を行い改善の余地を検討した。 【方法】既存の屋内歩行路(歩導くんガイドウェイ、錦城護謨製 以下、誘導マット)の歩行安定性を、非設置路面(以下、平滑路)における歩行速度・体幹動揺計測結果との比較から確認した。さらに方向指示性を高める目的で2種類の誘導マットを製作した。一つは誘導マットの平坦部と傾斜部の下部に設けた突起の間隙を全て埋めた「全充填タイプ」、他は傾斜部のみ埋めた「両端充填タイプ」で、これらを既存誘導マットと比較した。評価には、安定性、追従性、方向検出性等の指標を用いた。被験者は、視覚無し歩行のトレーニングを受けた晴眼者(アイマスク・イヤーマフ着用)9名とした。 【結果】既存誘導マット上での平均歩行速度は0.57m/秒で、平滑路上(0.72m/秒)よりも低かったが、加速度計測による体幹の左右への最大変位幅は既存誘導マットが144.3mmで、平滑路は144.2mmと変わらなかった。考案した2タイプの誘導マットでは、体幹の変位幅は全充填タイプ136.8mm、両端充填タイプ130.6mmと、既存誘導マットや平滑路よりも小さかった。また、方向定位に要した平均時間は既存誘導マットが8.7秒、全充填タイプ8.7秒、両端充填タイプ8.3秒であった。既存誘導マット、全充填タイプとも5mの歩行路からの逸脱は全81試行のうち1回、両端充填タイプは0回であった。 【考察】本研究の結果から、「両端充填タイプ」の誘導マットは、既存誘導マットよりも方向検出性が高いことが示唆された。しかし二つの充填タイプの差は小さく、両者の差違を主観的評価等によって検討する必要があると考えられた。 15 視覚障がい者の単独歩行に必要な空間情報についての研究 ○吉岡 学 1)、清水 順市 2) 1)金沢大学附属特別支援学校、2)東京家政大学健康科学部 【目的】視覚障がい者が直接的な移動のみから環境を的確に空間認知することは困難である。そのため、本研究では、視覚障がい者自身が単独歩行の際に必要とする空間情報を明らかにする。 【対象】早期失明者20名である。いずれも3歳以前に失明し、視覚以外の障がいの無い者であり、かつ白杖による単独歩行が出来る者とした。 【方法】対象を10名ずつの2つのグループに分けた。1つ目は、実験経路を普段から白杖歩行をしている者(既知環境グループ)、2つ目は、実験経路を一度も歩行したことがない者(未知環境グループ)とした。既知環境グループは、実験経路を白杖単独歩行しながら必要な情報を口述し、ICレコーダーで録音した。一方、未知環境グループは、最初に実験経路で晴眼者と手引き歩行を行い、その後、同じ経路において白杖単独歩行しながら必要な情報を口述・録音し、各データを分析した。 【結果】既知環境グループが白杖歩行を行う場合には、路面上に不変的に存在する複数の対象物を白杖で確実に触知することを重視している。一方、未知環境グループは、順序や距離、方位など、時々刻々と変化する情報を確認することを重視していることが明らかになった。 【考察】視覚障がい者が白杖歩行を行う場合、その環境が既知であるか未知であるかによって必要とする情報の数は異なる。未知環境の場合には時々刻々と変化する情報を処理することで精一杯であり、白杖によって触知できる参照点を把握する余裕がない。そのため、それらの情報を取り入れた触地図で事前に学習することは重要であり、触地図の必要性が高いと考える。 16 自由歩行時における白杖使用中の上肢筋活動 ○清水 順市 1)、吉岡 学 2) 1)東京家政大学健康科学部、2)金沢大学附属特別支援学校 【目的】視覚障害者にとって、白杖は移動時に必需な福祉用具である。我々はこれまで、小児用白杖の開発に関わり、長さ調節式白杖、白杖のグリップ、交換式石突を開発してきた。今回は、タッピング時の上肢筋電位量を新規に開発したグリップの白杖用を使用し、安静起立時と自由歩行時で比較したので報告する。 【対象】日常は白杖を使用し,タッピング法も用いて歩行している先天性全盲の7歳女児である。今回は母親が小児用白杖の存在をWeb上で見つけて試用を希望した。 【方法】採取筋は右上肢の手指屈筋群、手指伸筋群、腕橈骨筋、上腕二頭筋、三角筋前部線維、三角筋中部線維の6筋とした。Biometric社製Data Lightを用いて、無線方式で記録した。用いた電極は重量が17gであり、コード類が無いため,白杖操作に支障とならなかった。筋電位採取後の解析はDKH社TRIAS Ⅱで行った。  製作したグリップ(握り部の周径87-103mm)付き長さ調節式白杖と日常使用している白杖の2本を使用して、タッピング法での自由歩行と安静起立時のタッピングを計10回測定した。筋電位解析は、各動作の開始時から500msecの時間とし、RMS(Root mean square:実効値)を算出した。 【結果】安静起立時のタッピングでは、腕橈骨筋が最も大きな値を示した。歩行中は手指屈筋群、上腕二頭筋、三角筋中部線維の活動の大きな増大が確認できた。自由歩行時のタッピングでは全ての筋が安静起立時のタッピングよりも高い活動量を示した。 【考察】1例提示ではあるが、本例ではタッピング法における上肢筋活動は安静起立時より歩行時の方が大きかった。特に上腕二頭筋と三角筋の活動が増大したことは、歩行により下肢からの力が体幹へ伝わり、体幹が前方へ推進するだけでなく、肩関節に連結している筋が前方へ推進していることが示唆される。白杖は歩行時の誘導機能を有していることが考えられる。 17 スマートフォンによる歩行者用信号機検出の基礎研究 ○中島 滉太、片山 英昭、丹下 裕、森 健太郎 舞鶴高専 電気情報工学科 【目的】本研究室では、視覚障害者の空間把握補助を目的とした物体検出システムの開発を行っている。現在行っている研究の1つに、小型デバイス(Raspberry Pi)を用いた歩行者用信号機の検出がある。これはデバイスに取り付けたカメラで取得した画像中の歩行者用信号機を検出して視覚障害者に通知するシステムである。しかし、このシステムを利用するためには小型デバイスが必要である。そこで、誰もが手軽に使えるよう、スマートフォンで歩行者用信号機を検知可能なシステムを構築することにした。今回は、androidスマートフォンで高速に動作する機械学習モデルの作成結果を報告する。? 【方法】信号機検出のための機械学習モデルには YOLOv4 を用い、電球式信号機の赤と青、 LED式信号機の赤と青の4 種類を分類する。電球式信号機の赤は 77枚、青は 89 枚、LED式信号機の赤は 50 枚、青は 89 枚の画像を用いて学習させる。学習済モデルをスマートフォン上で動作するTensorFlow Lite 形式に変換し、android アプリケーションに組み込む。実験にはASUS ZenFone AR (ZS571KL)を用いる。 【結果】学習させたモデルのmAP(mean average precision)は 98.5%であった。mAPは物体検出の精度を比較するための指標の1つである。なお、mAPの計算では物体認識の分野で領域の一致具合を評価する指標であるIoU(Intersection over Union)を50%としている。android アプリケーションに組み込み動作確認実験を行い、リアルタイムに動作することを確認できた。検出精度は、画像サイズの10%以上を信号機が占める場合には50%以上と高かった。しかし、横断歩道を挟んだ場合には、信号機が画像サイズに占める割合が10%以下となり、信号機の検出精度は低かった。 【考察】スマートフォンで歩行者用信号機をリアルタイム検出できることが分かった。小さい信号機の検出精度が低かった原因は、画像サイズの10%以上を信号機が占める画像を学習用に用いたためであると考える。発表時には、画像サイズの10%以下を信号機が占める画像を含めた新しいデータセットを作成し、検出精度を評価した結果を報告する。 18 盲導犬歩行に対する調査と今後の課題 ○斉之平 真弓、坂本 泰二 鹿児島大学 眼科 【目的】視覚障害者の移動手段の一つに盲導犬歩行がある。安全な盲導犬歩行のためには、使用者による盲導犬への正確な指示が必要である。しかし、日々の道路状況や環境変化に対応した安全性を確保するためには、周囲の支援を必要とする場合がある。そのためには、一人でも多くの一般の人たちが、盲導犬歩行の正確な知識を習得しておくことが必要である。今回、医学生にアンケートをして、盲導犬歩行の知識や理解を調査したので報告する。 【対象と方法】医学生96名を対象に、ロービジョンケアの講義の中で、盲導犬は「道案内ができるか」と「信号の色がわかるか」について選択式アンケート調査をし、正解を表示後に記述式アンケート調査(自由回答)を実施した。 【結果】「道案内ができるか」はできるが72%、できないが28%、「信号がわかるか」はわかるが76%、わからないが24%であった。回答者の70%以上は、盲導犬は信号がわかり、道案内ができるという、間違った理解をしていた。記述式回答では、「盲導犬の制度や育成、訓練についてもっと知りたい」、「盲導犬の使用者に積極的に話しかけて、お手伝いしたい」等があった。正確な知識を習得した後に、盲導犬歩行の理解が深まり、積極的な支援の姿勢がみられた。 【結論】医学生という限られた年代における調査ではあるが、盲導犬歩行に対する知識や理解は広まっておらず、誤解がみられた。今後の課題として、盲導犬歩行の安全性を確立するために、正確な知識を習得し理解を深める機会が必要と考えられる。 【Ⅲ 視覚特別支援学校における歩行指導(19~22)】 19 事例1 先天性視覚障害児への触地図を使った室内の歩行指導における担任との連携 ○丹所 忍 1)、武田 貴子 2)、堀江 智子 3)、三科 聡子 4)、門脇 弘樹 5)、韓 星民 6)、中村 貴志 6)、中野 泰志 7)、青木 隆一 8) 1)兵庫教育大学、2)北九州市立介護実習・普及センター、3)公益財団法人 日本盲導犬協会 富士ハーネス、4)宮城教育大学、5)山口学芸大学、6)福岡教育大学、7)慶應義塾大学、8)千葉県教育庁教育振興部特別支援教育課 【目的】盲学校において他機関に所属する歩行訓練士が行う歩行指導の有効性と学校コンサルテーション上の課題を事例的に検討する。 【方法】本指導はA盲学校に対する発表者からの研究協力依頼により行われた。対象児は点字で学年相応の学習を進める小学部2年の児童(B児)であり、原則週1回1時間(45分間)自立活動の時間に歩行指導を行った。未知の室内の認知地図の形成と移動の能率性の向上を指導目的とし、自作した触地図を用いて触地図構成と移動による指導を行った。指導期間はX年9月~X+1年2月で、指導前後の評価を含め計20回実施した。指導者は大学に所属し盲学校で先天性視覚障害児の歩行指導経験を有する歩行訓練士であった。B児の担任は授業に同席して指導場面の動画を記録した。保護者に対し、担任を通して事前に指導計画を示し、事後には指導結果の概要を報告した。 【結果】指導時、B児は、例えばドアからは自分の机に行くことができても窓からは行くことができないなどの困難性を示した。また、本研究の指導内容に加えて、壁を使った方向の取り方等の諸技術を指導した。指導後、B児は室内の未指導の地点でも触地図構成や移動が可能となった。加えて、担任が指導場面を参観することで、B児の歩行に関する実態、指導目的、方法等が共通理解され、屋内移動の諸技術等の指導が担任によって日常的に行われるようになった。また、担任は地図指導の必要性を実感したと感想を述べた。 【考察】本研究において先天性視覚障害児が室内の認知地図を形成し能率的に移動できるようになるには、指導時間を確保し触地図等を用いて丁寧に指導する必要性があった。また、指導場面を参観した担任によって屋内移動の諸技術が指導されるようになった点で有効性があった。こうした指導は、目的や方法が理解されれば担任等が実施可能な指導内容であると考えられる。一方、児童生徒への継続・発展的な歩行指導を実現するために、授業を参観していない教員への研修・引継のあり方を検討することが今後の課題である。 20 事例2 専門スタッフ強化事業を活用した歩行指導担当者との協働と教員研修会の実施 〇武田 貴子 1)、立石 真澄 2)、永江 哲 2)、堀江 智子 3)、丹所 忍 4)、門脇 弘樹 5)、中村 貴志 6)、中野 泰志 7)、青木 隆一 8) 1)北九州市立介護実習・普及センター、2)福岡県立北九州視覚特別支援学校、3)(公財)日本盲導犬協会 富士ハーネス、4)兵庫教育大学、5)山口学芸大学、6)福岡教育大学、7)慶應義塾大学、8)千葉県教育庁 【目的】盲学校が行う「専門スタッフ強化事業」への協力依頼を受けて、2017年度から3年間、外部歩行訓練士として関わった。本事例で行った歩行指導と学校コンサルテーションの有効性と課題を報告する。 【方法】1年目は3回、2年目は7回、3年目は6回実施した。1年目は、(1)強化事業担当教員と「外部歩行訓練士に何ができるか」、「外部歩行訓練士に期待する事は何か」を話し合った。(2)歩行指導担当教員が行う歩行指導を参観し、対象の児童生徒の歩行能力について意見交換した。(3)教員研修会を行い、福祉制度における福祉用具を紹介した。2年目は、(1)歩行指導担当教員と意見交換しながら、児童生徒への歩行指導を外部歩行訓練士が行った。(2)教員研修会では、福祉制度について1年目とは異なる内容を紹介した。3年目は、(1)各学期1回ずつ、2名の児童生徒に対して定期的な歩行指導を行った。(2)教員研修会では、「よろず相談会」として歩行指導や福祉制度に関する質疑応答を行った。 【結果と考察】児童生徒への指導前後に歩行指導担当教員と毎回情報交換した事で、児童生徒の状態と課題を共有して指導できた。また、「今」必要な目的地までの歩行指導(その学年・年齢に応じた内容)と、「将来」必要となる歩行指導(卒業後や成年時を想定した内容)を意識してもらう事で、「今」行う歩行指導の目標をより明確に共有できたと考える。   教員研修会では、福祉制度について情報提供する事で、児童生徒の「生活支援」に対する意識化を図る事ができたと考える。   盲学校において外部歩行訓練士が歩行指導担当教員と協働して歩行指導を行うには、教員に歩行指導の技術的な方法を伝えるだけでなく、児童生徒の実態把握と指導目標を共通理解する事が重要である。それらに加え、今後は指導効果をも共通理解するための協働のあり方やツールの検討が必要である。 21 事例3 児童生徒の歩行指導における「基礎的歩行能力個別課題整理表」の作成と活用 ○堀江 智子 1)、山本 敬子 2)、二木 玲 3)、小布施 康子 3)、丹所 忍 4)、武田 貴子 5)、中野 泰志 6)、青木 隆一 7) 1)公益財団法人 日本盲導犬協会 富士ハーネス、2)元静岡県立静岡視覚特別支援学校、3)元長野県松本盲学校、4)兵庫教育大学、5)北九州市立介護実習・普及センター、6)慶應義塾大学、7)千葉県教育庁 【目的】教育の専門家に対して、必要な分野の専門家が助言等を行うことにより間接的に支援する方法として、学校コンサルテーションがある。発表者が2校の視覚特別支援学校の自立活動の歩行指導に外部歩行訓練士として協働して行う活動は、これに当たるのではないかと考える。今回、生活全体の中の移動という視点から、教員が作成する歩行指導計画の参考になるよう「基礎的歩行能力課題整理表」を作成したので報告する。 【方法】歩行指導の目標を「卒業後の将来に視点をおき、WHOのICF(国際生活機能分類)の観点から一人一人の『活動』に応じた基礎的歩行能力を高めること」であることとした。教員が行う授業を定期的に参観し、歩行指導のアプロ?チ方法や課題設定へ助言し、開始期・中間期・終了期の評価を共有して、次の目標設定と学校や家庭での取り組みの参考にしていただいた。評価法として、基礎的歩行能力課題整理表を作成し、レーダーチャートによって進捗を「見える化」した。評価は、知識、感覚・知覚、心理的課題などの基礎的能力5項目と、白杖操作や地図的操作、失敗からの回復を含む歩行能力8項目に分類し、各項目に求められる評価視点を3種類設けた。評価基準は5段階で「導入して基礎を伸ばす段階」から「大変安定している段階」としたが、この基準は、教員が次に取組む課題を設定して指導内容やアプローチ方法を検討するためのものであり、能力の優劣を示すものではない。また、横断歩道や交通機関等を利用するなど屋外を中心とした歩行を目指す児童生徒用と、低年齢や重複障害等で教室間等を中心とした移動を目指す児童生徒用の2種類を作成している。 【結果】この課題整理表では、移動に必要な課題の全体像を把握し、レーダーチャートによって課題の優先順位を整理でき、進捗が把握しやすいと評価があった。 【考察】これを広く使ってもらい、更に自立活動の6区分27項目に合わせた評価法も検討していきたい。 22 歩行訓練士の継続的なコンサルテーションによる歩行指導 ○山本 敬子 1)、堀江 智子 2) 1)元静岡県立静岡視覚特別支援学校、2)公益財団法人 日本盲導犬協会 富士ハーネス   【目的】静岡県では教職員が公的に歩行訓練士の資格を取得する制度がなく、資格を有する教職員はほとんどいない。本校の在籍幼児児童生徒数は20名前後で、少人数化、障害の多様化により歩行指導の実態や目標も多岐にわたる。そのため、身近に参考となる生徒がおらず指導の見通しがもてない担当者も少なくなく、年度によって歩行指導担当者が交代する場合も多い。  そこで本校では、平成24年度から県内の歩行訓練士に年間8回程度のコンサルテーションを依頼し、歩行指導への助言を受け、教員の専門性を高め、児童生徒の歩行能力向上を図っているので報告する。 【方法】指導を受ける児童生徒や回数等の年間計画を立て、歩行訓練士に実際の歩行指導に同行してもらい、時にはその場で直接指導を受ける。終了後には、指導者や計画責任者が歩行訓練士から具体的に指導助言を受ける。  令和元年度からは、基礎的歩行能力課題整理表に基づいたレーダーチャート表を歩行訓練士に作成してもらい、年度当初に児童生徒の歩行能力を確認し、年度末には指導の評価や進捗状況を確認している。また、毎回の助言を受けて各児童生徒の短期目標を具体的に設定し、次回の指導の際に進捗状況を報告する。短期目標を立てる際は、基礎的歩行能力課題整理表の該当項目を記入し、レーダーチャート表と同様の5段階で評価する。 【結果と考察】歩行訓練士の指導助言を受けて短期目標を設定することで、指導者が目標を明確にして指導にあたることができ、児童生徒の歩行能力の向上につながった。また、知識、安全性などレーダーチャート表13項目の評価により児童生徒の歩行能力の変化や課題がわかりやすいだけでなく、将来を見通した実態や課題を確認できた。 【まとめ】本校の歩行指導に関する課題に対し、歩行訓練士から長期的な視点で指導助言を受けることで、教員の指導力を高め児童生徒の歩行能力向上を図ることができた。今後も継続して指導を受けていきたい。 【Ⅳ 教育(23~26)】 23 点字学習を検討していた就学前の視覚障害児に墨字学習を試みた一例 ○安山 周平、原田 敦史 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 【はじめに】就学前の視覚障害児(以下、Aさん)の墨字学習に関わる機会を得たため報告する。 【プロフィール】5歳女児、身体障害者手帳1級、両視神経低形成、視力 右)0.01 左)光覚弁、場面緘黙症あり 【経過】2019年3月、翌年に小学校入学を控えたAさんの母親から小学校への進学と点字学習に関する相談があった。  見え方を評価した際、触る絵本に描かれたキャラクターの目や口の位置を尋ねると、10㎝程の距離から右目で対象を見た後に指さす様子がみられた。そこで、2㎝角で書かれた片仮名カードを別のカード群から探し出すゲームを行ったところ、時間はかかったが、同じカードを取り出すことができた。Aさんのことをほとんど見えないと思って点字学習を検討していた母親はとても驚いていたが、見えていること、文字学習の可能性があることを知り、見ることを主にした遊びを取り入れて経過をみていくことになった。  相談当初は顔や目をあまり動かさなかったが、半月後には動かすことが増え、数字を順番に並べられるまでになっていた。さらに2か月後には見ようとする動作が増え、50㎝四方に散らばったカードの枚数を数えられるようにもなった。半年が過ぎた頃には文字なぞりにも取り組み始め、言葉を発するようにもなり、教材に対して「小さいから嫌」、「暗いから嫌」といった発言から、見え方に繋がる情報を我々が得られるようになっていった。  2020年3月に相談を終了して以降も墨字による学習を続けており、現在ではいくつかの平仮名の読みを覚え、太いマジックペンで自分の名前も書けるようになっている。 【まとめ】相談が無ければ、Aさんは視覚を活用し、墨字を読む可能性を失っていたと考えられる。3歳児健診も実施されているが、幼児の視機能発達を損なわないよう、医療、教育、福祉の専門家がしっかりと連携し、視覚を使う機会を失わないよう注意していく必要があると感じた。 24 大学入試にむけたロービジョン生徒への支援 拡大読書器利用の2事例報告 ○田中 恵津子 1,2)、伊藤 嘉奈子 1)、花島 聖 1) 1)浜松視覚特別支援学校、2)愛知淑徳大学 【緒言】入試においては、時間や補助具の制限がある中で、読み書きを正確に速く行う必要がある。浜松視覚特別支援学校高等部3年のロービジョン生徒に対し、受験校の出題・回答方法確定後、回答タスクでの最適な補助具や所作を確認する支援を行った。ここでは拡大読書器を反転と拡大目的に使用した2事例について報告する。 【症例提示】症例1)視力:両眼=(0.03×遠視性乱視の常用矯正眼鏡)、視野:?両眼開放下で半径10~15度、コントラスト感度(以下、CS):両眼= 0.48logCS、読書評価(MNREAD-J横書き/縦書き):?最大読書速度(234/200)文字/分、臨界文字サイズ(1.4/1.57)logMAR、書字サイズ1.6-1.7logMAR、眼振:眼位性眼振あり。試験:英語と国語。支援:図表発見の工夫、グラフ凡例検出用表示調整、視線往復のための目印作成、眼振を減弱させるモニタ位置の調整が有効であった。視野狭窄とCS低下があると、図表や図表内凡例を見逃すことがあり、予めグラフの構成要素などについての知識が役立つことがわかった。  症例2)視力:右眼=光覚(-)、左眼= (0.08×+10.0D)、調節力:無水晶体眼のため無し、視野:?半径10度弱、CS: 1.0logCS、読書評価(MNREAD-J横書き):?最大読書速度259文字/分、臨界文字サイズ?1.3logMAR、書字サイズ1.68logMAR。試験:小論文。支援:読みと書きで異なる屈折矯正(書字時は手を奥に入れるためモニタに接近)、長文読み用の拡大と視距離の選択、回答中の小物落下回避の工夫が役立った。無水晶体眼の症例では読書器上の読みと書きで必要な屈折矯正が異なることがあることがわかった。視野狭窄で長文読みをする場合は、問題文の1行の文字数指定ができれば改行にかかる時間を削減できるであろうことがわかった。 【考察】受験には種類の異なる視覚タスクが存在した。拡大読書器を使用する場合、視機能特性に伴う困難に対し、事前にすべき評価と支援があることがわかった。 25 視覚障害児童・生徒の卒業後のキャリアアップのための効果的な支援や取り組みの分析 ○刀禰 豊 1,2)、阿部 麿呂 2) 1)岡山東支援学校、2)チーム響き                                 【目的】視覚障害児童生徒の卒業後の就労や地域生活での支援は、進路先の作業所や地域の福祉関連の場などでの相談で継続的に受けている場合が多い。盲学校などの卒業生を支援している「チーム響き」と関わりを持っていた事例から、キャリアアップの観点で必要な学習の援助の例を検討し、個々の活動等の中で大切にしてきた継続的な支援の在り方を探る。 【方法】卒業後のキャリアアップのための支援の実態を分析し、個別に必要な学習支援のニーズや個々の思い・考えをまとめることで、効果的な継続的支援の方向性を探った。 【結果】学習支援を希望した数名の支援内容、当事者たちの要望等から次のようなことがわかった。  (1)さらに上級の学校に進学する場合の選考検査において、教科学習の工夫に自分で取り組むことが困難になってくることがある。 (2)作業所などで働きながら学習を進める場合、相談できる支援者が少ない。家族などに協力をしてもらう場合も多いが、本人たちの求める支援がタイムリーには得づらい。 (3)卒業後のキャリアアップに対し、本人の努力や取り組みを継続的にサポートしてくれる場が少ない。 【考察】支援学校卒業後も、あはき資格取得のための学習機関等への入学、入所等の学習を継続的に支援する取り組みが大切になってくる。   キャリアアップのために必要な科目の支援を受けている卒業生等の思いや考えの実態を分析することで問題点が把握できた。盲学校以外にも、国家試験の受験などのためのキャリアアップ施設では教科科目の試験を課すところが多い。学習のための教材の工夫や、視力低下等で音声に多くを頼る必要性からデータを電子化して送るなど、個にあった工夫が必要となる。より効果的な支援が得られるような部門や方策が、公的な福祉の場などに作られていくべきであると考える。 26 視覚障害領域における免許法認定講習の実施状況と課題 ○中嶋 克成 徳山大学福祉情報学部 【目的】現在、附則第16項により、特別支援学校教諭免許状(以下、免許状)非保有者も特別支援学校で教員になることができ、特別支援教育の質保証上の大きな問題である。2018年度の免許状保有者調査の中で、非保有率は知肢病3領域で20%前後であるのに対し、視覚障害領域では38.3%と約2倍であった。  この免許状非保有率の高さという問題を解消するため、例えば、(1)教育委員会・大学などが実施している「免許法認定講習」や、(2)独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の「免許法認定通信教育」、(3)大学等の「通信教育」や「科目等履修生」などで同免許に関わる単位を取得できるようになりつつある。  本報告ではこの状況を補う「制度」の実態を調査し、その課題を抽出する。 【方法】「免許法認定講習」の近年の実施状況について、文部科学省公開の資料を調査した。 【結果】平成26年度教育委員会主催の「免許法認定講習」は全部で643講座ある。そのうち特別支援教員免許に関わる講座は310講座(48.2%)であり、「視覚障害領域」のみに関わる講座は51講座(7.9%)であった。  令和元年度教育委員会主催の「免許法認定講習」は全部で697講座であった。このうち、特別支援学校教員免許に関わる講座は382講座(54.8%)であった。そのうち、視覚障害領域を含めた「複数の領域」の特別支援学校教員免許取得に関わる講座は116講座(16.6%)、「視覚障害領域」のみに関わる講座は55講座(7.9%)であった(ポスター表1,2,3参照)。  また、「視覚障害領域」のみに関わる講座を内容について分類したところ、心理生理病理、指導法、心理生理、心理、病理、理解、その他が抽出された。 【考察】特別支援学校全体としては、徐々に免許状非保有での教員免許取得の道を広げつつある一方、視覚障害領域の講座数はほぼ横ばいであった。講座の内容には包括的内容と言い難い科目もある。複数の教育領域を1校で扱っている併置校もある中、一部の講座に内容的な偏りがあるのは教育の質を担保する上で問題である。講座内容の精選が今後の課題といえる。 【Ⅴ 医療・心の健康(27~37)】 27 急性期病院(アイセンター)での関わりがロービジョンケアに繋がった患者の1例 ○岩村 亜紀、足藤 広巳、谷島 成子、蒔田 潤、篠田 啓 埼玉医科大学病院 【緒言】急性期病院における入院中の関わりがロービジョンケアに繋がった1例を報告する。 【症例提示】70歳代女性、ADL自立、独居。右眼は硝子体手術後シリコンオイル注入による高眼圧で緑内障治療薬使用中(視力0.03)、転倒により視力の良かった左眼を強打して眼球破裂、緊急手術を受けた。外来受診の時点で、左眼の視力低下からロービジョンケアが必要と考えられた。患者も「何もできなくなってしまう」と悲観し、落胆していた。   術後点眼は看護師が介助したが、患者自身でできることがあればと思い、手術翌日から右眼の緑内障点眼の自立を促した。左右の点眼薬を別の箱に入れ、似た容器には輪ゴムを巻くなどの工夫をして点眼自立できた。数日後、見えなくても歩行や身の回りのことでできることがあると話した。退院3日前、廊下をしばらく手引き歩行した。その際、とても明るい表情をしたので、受け止めの確認をしながら訓練施設やブラインドヨガの話をしたが、関心はない様子だった。  退院後の外来で、入院中に廊下で聞いた話をもう一度確認させて欲しいと笑顔で言われ、再度説明し、便利グッズについても伝えた。その後、ロービジョン外来受診となった。 【考察】外来、入院を通して同じ看護師による関わりができたことで、患者の様子が把握でき、早期に右眼の点眼自立に対する支援が可能となった。悲観的だった患者は自分でできることが見つかり前向きになったと考える。また、継続したロービジョンケアの情報提供ができたことにより、患者が今後の生活に対して意欲的になったと考える。  患者が眼の障害を受容するためには時間がかかるため、入院期間の短い急性期病院では、ロービジョンケアの話をするタイミングが難しい。しかし、症例を選択すれば早期からロービジョンケアをスタートできる場合がある。今後は症例の選択基準を定め、ロービジョンケアのステップを構築して、組織的にケアに繋げることが必要である。 28 MP-3を用いた偏心視訓練を試みた1例 ○福田 洋貴、原 克典、谷戸 正樹 島根大学病院 眼科 【緒言】黄斑部が障害されると中心暗点や視力低下が生じ、視覚の質が低下する。このような場合、中心窩以外の黄斑領域で固視する偏心視が視覚の質改善に寄与するが、通常は中心窩固視が確立しているため、自律的な偏心視の獲得は難しい場合が多い。今回、局所視感度測定装置MP-3(NIDEK社)を用いて、偏心視訓練を試みたので報告する。 【症例提示】34歳男性。2歳時に視神経脊髄炎(Devic病)に罹患。中心暗点を生じており、視力は右0.02(矯正不能)、左0.02(矯正不能)。MP-3による網膜感度測定および固視検査では、右眼は感度が良好な領域での安定した偏心視を獲得していた。左眼は感度が良好な領域で偏心視をしているが、固視がやや不安定であったため、左眼の偏心視訓練を試みることになった。訓練はMP-3のFeedback Examにて1回10分間を月に1度、計10回行った。また、字拾い形式で家庭での訓練も行った。訓練毎に視力、MNREAD-Jを使用した読書速度、MP-3での固視の安定性(以下、Circle2°)を測定した。訓練開始時の最大読書速度は138文字/分、Circle2°は55%であった。訓練終了時の視力は左0.02(矯正不能)、最大読書速度は183文字/分、Circle2°は54%であった。視力やCircle2°の改善はみられなかったが、最大読書速度は向上した。左眼による読書が可能となり、訓練前と比べて読書による疲労感が軽減した。 【考察】今回、訓練前後で左眼の固視の安定性は横ばいであった。これは、長い罹病期間の間に獲得した偏心視が、不安定ながらも強固なものであったためと考えられる。しかし、最大読書速度は向上していた。これは、読書時における有効な眼球の動かし方が、家庭訓練を通して身に付いた可能性が示唆された。今後、訓練スケジュールや内容、適応症例の選択基準など、症例数を増やし検討する。 29 病院内の掲示案内を見やすく環境改善した取り組み ○小谷 真弘 1,2)、大辻 由恵 1)、中島 未和 1)、泉 かおる 1)、叶迫 哲哉 1) 1)北野病院、2)近畿ロービジョン研究会 【目的】病院内の掲示案内の文字を大きくはっきり見やすく改善することにより、視覚障害者・ロービジョン者のみならず、白内障や眼底出血の患者など、見えにくい患者が安心・安全で快適に病院を利用いただけるように環境改善に努めた。 【方法】より視認しやすい掲示案内を作成するにあたり、現状把握の為にシミュレーションゴーグルを用いて掲示案内の文字を確認し、また、総合案内で患者から尋ねられる場所とその頻度を調べた。案内パネルの大きさや文字の改善を病院に立案した。  パネルの文字を見やすい形、大きさ、太さ、文字間隔に改善し、ピクトグラムも活用して2020年1月4日から設置した。吊り下げパネルは設置場所の工夫や吊り下げ鎖を短くする風対策など安全面にも配慮して設置した。柱、壁、カウンターの側面を使うパネルも設置したが、床は実施不可であった。  総合案内で尋ねられる数の多い4カ所について、改善前と改善後の各11日間の来院者数における割合で比較した。 【結果】尋ねられる数の多い4カ所である「エレベーター」は改善前12.7%が改善後11.24%、「初診受付」は改善前10.54%が改善後9.21%、「再診機」は改善前4.24%が改善後3.12%、「紹介患者受付」は改善前3.96%が改善後2.84%とほとんど差がなかった。ただし、尋ねた人は改善前後とも見えにくい患者ではなく晴眼者であった。  改善後にシミュレーションゴーグルで確認したところ、明らかに視認性の向上がみられた。また、病院ボランティア会からは見やすくなったとの声があった。 【考察】個々のパネルは見やすくなったと思うが、見えにくい患者での検証ができていなかった。今回の改善は病院内の限られた場所だけであったので、今後は見えにくい患者の意見を聞き、すべての掲示案内の改善をし、患者による検証を行う予定である。 30 島根大学医学部附属病院ロービジョン外来の現状と課題 ○加藤 加奈絵、原 克典、小村 哲郎、安部 梨奈、安井 愛佳、福田 洋貴、秦 久乃、矢田 萌里、谷戸 正樹 島根大学医学部 眼科学教室 【目的】島根大学医学部附属病院ロービジョン外来(以下、当院LV外来)開設後3年7か月間の受診患者の傾向と今後の課題を検討した。 【対象・方法】当院LV外来を2017年3月から2020年9月までの間に受診した124名(男性62名、女性62名)の患者について、診療録より後向きに年齢・原因疾患・視力・受診動機・受診回数・身体障害者手帳取得の状況・ケアの内容・ロービジョンエイド処方後の経過を検討した。 【結果】平均年齢68才(60才以上76名78%)、原因疾患は緑内障29名(23%)、糖尿病網膜症25名(20%)、網膜色素変性症16名(13%)であった。視力良好眼の視力0.1以下が52名、0.2~0.5が49名であった。受診動機は複数回答で、多かった順に読み書き困難95名(77%)、羞明77名(62%)、歩行困難29名(23%)であった。受診回数は平均1.7回で、1回63名(51%)、2回39名(31%)であった。1回の方のうち23名はその後の経過が把握できていなかった。既に身体障害者手帳を取得または申請中は62名で、LV外来受診時申請したものが46名であった。ケアの内容は、遮光眼鏡処方46名、拡大読書器処方40名、拡大鏡処方19名、福祉・教育施設紹介38名であり、そのうちの5名が歩行訓練を行った。モバイルデバイスの紹介は4名で全員40才以下だった。 【考察】拡大鏡、拡大読書器、遮光眼鏡の処方が多かったのは、読み書き困難や羞明が多かったためと考える。若年者のみでなく、高齢者にもモバイルデバイスの紹介ができるよう知識の習得に努めたい。LV外来を受診した後の状況確認が十分にできていなかった症例も多くあり、今後の課題は、ロービジョンエイドの使用状況確認、福祉施設へ紹介した場合の施設との充分な情報共有である。 31 KVS ORTサロンの歩み 眼科医療とリハビリテーションの架け橋に ○上野 絵理香 1,2)、岡田 弥 1,3)、原田 敦史 1,4)、仲泊 聡 1,5) 1)きんきビジョンサポート、2)平島病院、3)日本ライトハウス情報文化センター、4)堺市立健康福祉プラザ、5)理化学研究所 【緒言】きんきビジョンサポート(以下KVS)は、「医療と福祉の架け橋に」を合言葉に2003年より活動してきた。その活動の1つに、2011年より開催してきた視能訓練士および眼科医向けのロービジョン勉強会「ORTサロン」がある。ORTサロンの特徴は、KVSに所属する歩行訓練士、福祉用具供給事業者、眼科医、視能訓練士、ロービジョン当事者という様々な立場の者が講師役を務めていることである。今回は活動紹介と参加者に行ったアンケートについて報告する。 【活動提示】ORTサロンは、2011年1月から2020年1月までに18回開催され、参加者数は延べ320名であった。内訳は眼科医12名、視能訓練士288名、その他20名(視覚特別支援学校教員、視能訓練士養成校学生、事業者社員、当事者)であった。これまでに実施した主な内容は、ロービジョンケアに関する知識のアップデート(16回)、視覚リハビリテーションについて(11回)、症例検討(3回)、当事者の話(3回)、座談会(3回)であり、視覚リハビリテーションに関するテーマや当事者に学ぶ日常生活の工夫など職種・立場の垣根を越えた内容を積極的にテーマとして取り上げてきた。  参加した視能訓練士に、ロービジョンケアを自施設にて実際に行っているかを2018~2020年に計4回アンケートしたところ、「行っている」が69%、「行っていない」が23%、「今後取り組むつもり」が8%であった。  参加者アンケートでも「視覚リハビリテーションのことを知るきっかけとなった」「当事者と意見交換ができてよかった」といった意見が多かった。 【考察】アンケートの結果から、ORTサロンは他職種間の連携のきっかけ作りになっていると考えられた。 今後も、日常の医療現場では手の届きにくい部分について、福祉の専門家や当事者と連携しながら学び合う場としてORTサロンを活用し、医療と福祉の架け橋となれるよう活動を続けていきたい。 32 就労場面でのヘッドホン等の利用と聴力低下に関する課題提起 ヒアリング調査より ○伊藤 丈人 障害者職業総合センター 【目的】重度視覚障害者が職場でスクリーンリーダを利用する際、ヘッドホンやイヤホン(以下、ヘッドホン等)を使用することが多いが、その長時間の利用が難聴の要因になるとの指摘がなされている。本報告では、当事者へのヒアリングを通して、聴力低下とそれへの対応を整理し、必要とされる支援や配慮について検討するための議論の前提を提示することを目指す。 【方法】聴力低下を経験した3名の視覚障害者に対し、ヒアリングを行った。なお、3名の眼疾患は、聴力低下を併発するものではなかった。 【結果】以下のような状況が明らかとなった。 (1)聴力低下に至る過程 ・聴力低下は徐々に進行するため、その事実に気づかずに月日が過ぎてしまったと、3名全員が指摘していた。 ・1名は、オフィスの騒がしさなどが、ヘッドホン等の音量を上げてしまう要因となっていると指摘していた。 (2)予防 ・2名は骨伝導ヘッドホンを試したが、いずれも継続利用をやめていた。うち1名は、その理由として、スクリーンリーダの音声に集中できないことを指摘していた。 ・2名は点字ディスプレイを活用していたが、音声の方が適している作業があると指摘していた。他の1名は点字に習熟していないため、活用していなかった。 (3)適応(聴力低下以後) ・3名とも補聴器を活用することで、スクリーンリーダを使用した業務を継続していた。 ・1名は事業主に職務転換を申し出、個室で作業ができる職場への移動が認められた。他の2名については、それが可能な職場環境ではなかった。 【考察】ヘッドホン等の使用に伴う聴力低下リスクの予防策として、骨伝導や点字の併用などが試されていたが、いずれも決定的な解決策とはなっていなかった。聴力低下後もスクリーンリーダを活用し、耳に頼って働き続ける視覚障害者の現状が明らかとなった。耳鼻科医への相談も含め、この問題への対策が急務であると考えられる。 33 健常な保有視覚の利用を困難にする「眼球使用困難症候群」への取り組み ○荒川 和子、若倉 雅登 NPO法人 目と心の健康相談室 【緒言】NPO法人目と心の健康相談室(以下、相談室)は、目の悩みや不調を持つ当事者に専門家らが対応することで、より健康的な生活を送る支援をすることを目指して2015年に設立された。近年、ほぼ健常な視覚を保有しているのに、羞明・眼痛・め、まい・吐き気など、これを妨げる因子のためにその視覚が使用できず生活の質を落とす、いわゆる「眼球使用困難症候群」への相談が急増したため、2019年に相談室内に支援室を設置するに至った。その活動の現況を紹介する。 【活動提示】相談室有料会員は460名(2021年1月現在)。相談は看護師・医師など相談室スタッフが主として予約制で受け、相談形態は電話が多く、他に面談・メール・オンライン・FAXなどがある。2019年1月から2021年1月までの2年間に、眼瞼痙攣を含む眼球使用困難症候群を有する新規相談会員数は74名(全新規相談会員数188名の61%)で、相談回数は延べ943回である。  支援室での相談内容は、1)眼科的な一般診察では異常がなく脳のMRIでも機能的異常は見つからないため、病気ではない・どこも悪くはないとされ、またドライアイ・眼精疲労などと診断されたり、時には精神科への転院を促されたりする場合もあり、いずれも改善にはつながらない、2)自在に目を開け続けられず実質的には視覚障害者と同等の不都合がある、3)適切な診断治療を受けたい、などが多かった。外出・読み書き・身の回りの事などに援助が必須で、重症例では寝たきりに近く、精神的にも追い詰められている場合もあるのに周囲の理解や支援が受けられない状況への相談もある。   支援室では、こうした症状の社会的理解を進めるための活動も同時に行っている。 【考察と結論】このような症例は気付かれにくく、視覚障害者として認知されていないため、社会的・法的に救済の手が差し伸べられてこなかった。支援室としては当事者の相談にのるだけでなく、この実態を積極的に発信する必要があると考える。 34 眼球使用困難者に対する情報提供についての活動報告 ○能戸 幸恵  みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会(G-frontier) 【緒言】平成30年8月に「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会(G-frontier)」を立ち上げ、主にウェブサイトとメルマガ、SNSを使って眼球使用困難(以下、PDE)者向けの情報を発信してきた。PDE者とは、平成29年に提唱された眼球使用困難症候群(以下、PDES)による障害を持つ者を指す。PDESとは、必ずしも眼球に起因しない高度の羞明や眼痛、まぶたの運動障害等により、目を使うことが困難な症状の総称である。多くの場合、視力・視野は保持されているため、福祉制度の恩恵に預かれない者が多い。そのため手帳がなくても受けられるサービスや安価な機器を紹介する必要がある。また、羞明対策においても、一般に普及している補助具だけでは対応しきれないため、特殊な業務向けの物、場合によっては高価であっても高いニーズのある物を紹介・発信する必要があった。 【活動提示】PDE者向けに以下の情報を提供した。 ・画面読み上げ機能・ソフト   Windows向け無料ダウンロードソフト「NVDA」、iOS・iPad OS・macOSの「VoiceOver」、  Androidの「TalkBack」 ・ITサポート先   それぞれの機能・アプリにおいてネット公開されているマニュアル   視覚障害者パソコンアシストネットワークSPANの全国の教室紹介ページ   民間有料サポート ・読書情報   点字図書館及びサピエ図書館、デイジー再生アプリ   音訳・点訳・テキストデータ化ボランティア   複合機のスキャナ機能・ドキュメントスキャナ・iPhoneのカメラを使ったOCR方法 ・歩行・生活訓練   必ずしも全ての機関で手帳要件が課せられているわけではないこと   白杖の購入・携帯に手帳要件は必要ないこと ・遮光グッズ   ディスプレイの最低輝度よりもさらに暗くできる設定方法や無料のフィルターアプリ   光を抑えた特殊ディスプレイ   アイシェード、虹彩付きコンタクト、電気溶接グラス、HDグラスなど 【考察】ICT機器の苦手な方への情報提供が今後の課題である。 35 ロービジョン者の買物環境調査からわかる課題と「心」の問題 ○谷川 ふみえ、飯塚 潤一、加藤 宏 筑波技術大学 【目的】ロービジョン者は、買い物時に値札や支払額の確認など様々な場面で困難を感じている。本研究では、ロービジョン者の買物環境に関するアンケートおよびインタビュー調査を実施し、買い物時における情報保障のための課題やニーズを探った。さらに、快適な買い物環境を構築するために考慮すべき障害受容の心の問題にも着目した。 【方法】アンケート調査期間は2020年3月2日~3月19日。買い物行動を8場面に分類し、場面毎の困難さを抽出し、質問紙(計16問)を作成した。続くインタビュー調査期間は2020年7月27日~9月10日。対面式・LINE・Zoomで半構造化面接をおこなった。調査はNPO法人タートルのメーリングリストを活用して実施した。 【結果】アンケート回答者は90名。  (1)陳列棚や商品の値段と品名:「とても困る」が72%であった。 (2)店員さんに尋ねる:「よく尋ねる」が66%であった。 (3)店員さんを探す:「とても困る」が45%であった。 (4)ルーペ等の使用:「まったく使用しない」が70%であった。その理由は「人の目が気になる」が最多であった。  アンケート回答者から抽出された15名へのインタビューでは「店内では白杖は使わない」「周囲の人に見えにくさがわかってもらえない」「本当は好きな時間に一人で行きたい」など買い物に伴う心理的な葛藤が語られた。  【考察】 店員の支援が受けられない場合は、家族の同伴、商品配置の暗記などで対処していた。ルーペなどの障害補償機器は重度のロービジョン者でも利用されにくく、白杖使用の際にも視覚障害と気づかれたくない、という心のバリアが関わっていると考えられる。  ロービジョン者には、買い物時の見えにくさだけでなく、店員への声掛けの躊躇、買い物客の前でのルーペの不使用など心のバリアがある。値札や掲示等への配慮だけでなく、障害当事者の意識の問題や社会の理解がより一層必要である。 36 視覚障害者の心身の不調とスクリーニング こころとからだの質問票を用いた考察 ○中津 大介 東京視覚障害者生活支援センター 【目的】視覚に障害があると、生活に影響を及ぼすだけではなく、抑うつ感をもったり、気分障害の治療が必要になる場合がある。しかし、眼科診療や視覚障害サポートの場、プライマリケアの場で、MHPSS(Mental Health and Psychosocial Support、精神保健・心理社会的支援)を行う心理専門職が入っている例は少ない。東京視覚障害者生活支援センターでは、利用開始初期に、何らかの心身の不調がある場合のスクリーニングと早期対応を目的として質問紙を行っており、経過を報告する。 【方法】PHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」(以下、PHQ-9)を用いた。2014年3月~2021年12月に自立訓練(機能訓練)の利用者のうち、PHQ-9を行った102名を抽出し、心身の不調が疑われる割合や症状について検討した。機能訓練を継続中の者は除外した。結果は個人が特定されないよう、統計的に処理された。 【結果】何らかの心身の不調が疑われる例は102名中10名(9.8%)であった。質問項目ごとに抽出すると、不眠は36名(35.3%)、抑うつ感11名(10.8%)、倦怠感16名(15.7%)、希死念慮4名(3.9%)であった。全例で聴取していないが、視覚障害の告知当初や、視力低下が著しかった時に希死念慮があった例は18名であった。 【考察】山田らによる視覚障害者の抑うつに関する研究では、うつ病疑いは23.7%、ボーダーラインは24.7%と報告されている。調査方法が異なるため単純比較はできないが、それと比較すると低い率であった。その要因は一つではないが、孤立度の低さや社会的サポート量の多さが関係していると思われた。不眠の数値は最も高く、心身の健康に配慮する必要は高かった。希死念慮は低い数値であったが、診断から間もない時期や症状の進行時には高いことが推測され、プライマリケアの段階でも対応していく必要性が示された。眼科診療や視覚障害サポートの場では、非精神科専門職が多く対応にあたっており、本検査のような非精神科専門職以外の者による使用を前提としたスクリーニング検査は、精神科治療等の必要性が生じた場合の連携をスムーズに行う上で、有益と思われる。 37 鹿児島心の健康講座  実践報告Vol. 8 ○良久 万里子 1)、田中 桂子 2,3) 1)鹿児島県視聴覚障害者情報センター、2)神戸市立神戸アイセンター病院、3)橋村メンタルクリニック 【はじめに】「鹿児島心の健康講座」は、視覚リハ担当者と心理カウンセラーが協働し、視覚障害者およびその家族、支援者を対象に、メンタルヘルス維持を目的とし、平成24年度から実施している。   ここではVol.7以降の実施分(2019年8月~2021年1月)を報告する。 【内容】 (1)視覚障害者および家族への総合的支援  医療機関に繋いだり、講座への参加を促したりしつつ、継続して支援している。 (2)視覚障害者対象の講座の実施 「防災教室」「マスクづくり」  災害に対するストレスを軽減する工夫を考えた。 「就労・就学児者のためのLV個別相談会」  職場・学校・家庭の環境改善につながるような補助具の選定を行った。 (3)視覚障害者・家族対象の講座の実施 「視覚障害者と親の情報交換会」  日常生活や環境の改善を目的に、10~20歳代の視覚障害者と親を対象に情報交換会を行なった。 (4)支援者対象の講座の実施  「支援者の心のケア」  セルフケアができるようになることを目指し、心のケアについての講義を取り入れた。 (5)医療機関との連携による講座の実施 「メンタルクリニックについて」  心理カウンセラーによるメンタルクリニックについての講座を実施し、その理解を深めた。また、精神科医師との協働により、診療所および関連施設の見学会を実施し、必要時に、気軽に受診できることを目指した。 (6)他分野の専門職との連携・協働による、視覚障害者対象の講座の実施 「チャレンジド・ヨガ教室」  日常生活の中に潤いを見いだし、自身でも心身のケアができるようになることを目指した。 【今後の展望】あらゆる状況下において、視覚障害者および関係者が心穏やかに過ごし、自身の生活を豊かにするアイディアやスキルを身につけられるような企画を立案していきたい。 【Ⅵ 生活・余暇・スポーツ(38~46)】 38 ロービジョンの高齢利用者へのデイサービス施設での配慮の試みとその成果報告 ○吉野 由美子 1)、舟越 智之 2) 1)視覚障害リハビリテーション協会、2)株式会社 エバーウォーク両国 【目的】介護保険制度で運営されているデイサービス施設であるエバーウォークは、100歳まで自分の足で歩けるようにを目標としたリハビリテーションに特化した施設である。運動能力が同等の5、6人が1グループになり、6種目をサーキットトレーニング方式で行っていく。どのような順番でトレーニングを行うかは、当日ホワイトボードに細い黒のサインペンで記入して知らせていた。良い方の眼の視力0.15の利用者には、この掲示が見えず、種目を移動するごとに職員に聞かなければならなかった。「掲示が見えにくくて困る」と訴えるロービジョンのある利用者に対応して、施設職員が掲示物の改善を行った過程とその効果について報告する。 【方法】(1)職員がロービジョンがある利用者と意見交換し、ユニバーサルデザインの知識のある職員とも話し合った。 (2)手書きだった利用者名と種目名を活字化し、種目名の周りに色を付けて色分けした札にして、磁石でボードに貼り付けた。 (3)種目の移動の順番を時計回りにして、どこからスタートしても右に移動すれば良いようにした。 (4)トイレ表示の文字を大きくした。 (5)説明文章の文字を大きくした。 【結果】(1)ロービジョンがある利用者は、種目の移動時に職員に聞くことなく、スムーズにトレーニングできるようになった。 (2)掲示の改善をおこなう前は、10人ぐらいの利用者が種目移動に迷っていたが、3人ぐらいしか迷わなくなった。迷っている3人は、認知症等の要因があると推測された。 【結論】高齢になると見えにくくなる人たちも多いため、ロービジョンに対する配慮は、ロービジョンがある者のみならず、利用者全体に良い結果をもたらした。 39 「見えない・見えにくい人のためのメイクレッスンヒント集」の完成 ○道面 由利香 1)、小倉 芳枝 2)、加藤 陽子 3)、加茂 純子 4)、内記 郁 5)、藤井 絢子 6) 1)横浜訓盲院 生活訓練センター、2)東京ヘレン・ケラー協会点字図書館、3)荒川たんぽぽセンター、4)甲府共立病院 眼科、5)神奈川県立総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム、6)横浜市立盲特別支援学校 【緒言】見えない・見えにくい人は、ファンデーションが厚塗りになってしまったり、眉を上手く書けなかったりする失敗を恐れて、メイクすることに消極的になってしまうことが多い。メイクにおいてよくある失敗の原因を分析し、その解決方法を提示するメイク指導のためのヒント集を作成した。このヒント集を見えない・見えにくい人がメイクに前向きになってもらうための支援に利用してもらうことを目的としている。   なおこのヒント集は、指導におけるヒントを集めたものであって、メイクの教科書ではない。指導のベースとなる基本技術は事前に習得していることを前提としている。 【活動提示】2018年に第27回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会でファンデーション部分のみ作成したヒント集を小冊子として配布した。   2019年にほお紅とアイシャドウを追加したヒント集を作成し、ホームページ(https://maketext.amebaownd.com/)からダウンロードできるようにした。この活動を第28回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会で発表した。  2020年12月には、マスカラと眉についても加筆し、予定していた項目の記載を全て完了させた。医療的な視点からみたメイクの方法についての提言として、化粧と眼の安全についてのコラムも追加した。 【考察】ホームページ公開1年後のアクセス統計では、アクセス数は決して多いわけではないもののコンスタントにこのヒント集を見られていることがわかった。また当事者からの問い合わせがあったことから、現在は指導者向けとして作成しているテキストのデイジー化を検討していくことで、見えない・見えにくい人が化粧にチャレンジすることへの一助となればと願っている。 40 盲ろう者の余暇活動充実のための訓練 聴覚言語相談員・手話通訳者との連携 ○古場 かおり、見陣 朋子、北野 真理 長崎市障害福祉センター 【緒言】長崎市障害福祉センター(以下、当施設)の盲ろう者支援は、平成4年の開館当初から聴覚言語相談員・手話通訳者(以下、聴覚障害支援職員)とともにある。福島1)が「視覚障害、聴覚障害いずれか一方の専門家だけの取り組みでは、盲ろう者のリハビリテーションは実現不可能である。」と指摘しているように、聴覚障害の専門家ともいえる聴覚障害支援職員が継続して生活訓練に関わることは非常に重要である。   本稿は、先天性聴覚障害の盲ろう者に対し現在行っている余暇活動の充実を目的とした生活訓練の事例報告である。視力低下に伴い、自宅での趣味を諦めざるを得なくなった盲ろう者が新たな趣味獲得の過程でみせた“余暇時間の過ごし方の変化”や“意思表示の変化”等について報告する。 【事例提示】60代男性で、障害等級は視覚1級、聴覚2級、コミュニケーション手段は触手話、手のひら書きである。   過去に当施設にて歩行訓練を受講。今回の訓練は余暇活動の充実が目的であった。訓練時は聴覚障害支援職員も同席し、訓練担当である視覚障害リハビリテーション指導員の指示を正確に伝えることに加え、本人発信の意思表示を汲み取り共有した。訓練開始時は、初めて取り組む作業に戸惑いを見せ、常に指示を待っている印象であった。しかし、内容を理解するにつれて訓練への見通しが持てるようになり、現在では、訓練準備(材料作り)から訓練時間、自宅での復習において、非常に意欲的に取り組んでいる。 【考察】当施設の盲ろう者支援は、聴覚障害支援職員と視覚障害リハビリテーション指導員とが日常的に情報を交換、相談し、方向性を確認し合っている。今回の事例を整理することで、その体制の重要性を再認識できた。  文献 1)福島智:2009,特別講演「盲ろう者として生きて」,第18回視覚障害リハビリテーション研究発表大会抄録集,24-25. 41 機織り訓練の導入を契機として積極的にロービジョンケアに取り組むことができた3例 ○岡﨑 あずさ 1)、中西 勉 1)、三輪 まり枝 1)、西脇 友紀 1)、山田 明子 1)、堀 寛爾 2)、清水 朋美 2) 1)国立障害者リハビリテーションセンター病院 リハビリテーション部、2)国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部 【緒言】円滑にロービジョンケアを進めていくには、患者自身が積極的に取り組めることも重要である。今回、触覚を活用した機織り訓練をロービジョン訓練の一環として導入したことが契機となり、積極的にロービジョンケアに取り組めた視覚障害の3症例を経験したので報告する。 【症例提示】症例1:40代女性。髄膜腫。視力は右眼(0.1)、左眼(0.06)。元来、絵を描くことが趣味であったが、受障後、何事にも無関心となり、訓練にも興味を示さなかった。日常生活機能訓練のひとつとして、視覚を必要としない機織りを紹介したところ、熱心に取り組むようになり、自身が打ち込んでできることを体得。現在も創作を継続中である。   症例2:40代男性。視神経萎縮。視力は両眼共に指数弁。手先が器用であり、毛糸の作業を紹介したところ、熱心に取り組み、多くの作品を完成させた。独創的なアイディアを次々と創出。現在も創作を継続中であり、自身の作品を毎回の訓練時に持参している。   症例3:50代女性。網膜色素変性症。視力は右眼(0.4)、左眼(0.3)。視野は求心性視野狭窄。元来、手作業を好んでいたが、発症後は見えないことを理由にあきらめることが多くなった。視覚を必要としない機織りを紹介したところ、仕上がった達成感を自覚し、自信を持って前向きに取り組むようになった。 【考察】3症例とも、「見えないからできない」とあきらめていたことが「見えなくてもできる」経験を少しずつ積み、「毛糸を買いたいから外へ出たい」という明確なニーズにつながった。そして「外出するために白杖を持つ、単独歩行をしてみる、外出支援の同行援護サービスを利用する」ことへつながり、積極的にロービジョンケアを進めることができた。 手芸を好む患者には、触覚を活用した機織り訓練の導入が有効である可能性が高い。 42 「みないろ会」活動報告 みんなでいろんな映画を見たいからバリアフリー映画をつくる会 ○南 奈々 1,2)、森 きみ子 1,3)、大歯 雄二 1,4)、重松 恵梨子 1,5)、梅﨑 智香 1,2)、横尾 章 1) 1)みないろ会、2)たかだ電動機株式会社視覚障害者支援部てんとうむし、3)佐賀県視覚連、4)シエサポ会、5)シアターシエマ 【はじめに】バリアフリー映画とは、視覚や聴覚に障害のある人が映画を楽しむために、画面に映っている情景や人物の動き、表情などを解説する「音声ガイド」、セリフだけでなく音楽や効果音の説明や、話しているのは誰なのかを伝える「バリアフリー字幕」がついている映画をいう。2018年4月に発足した「みないろ会」は、障がいのある人もない人も映画を通して交流し、つながることのできる環境づくりを目指した活動を行っており、コロナ禍の中でも続けてきた活動内容を報告する。 【内容】 (1)バリアフリー映画制作に使用する機材購入のための資金調達  バリアフリー映画制作や、上映に必要な機材購入のための募金活動を行い、目標金額を上回る100万円以上の寄付を得た。また、各種助成金への応募を行い、活動資金を得ることができた。 (2)音声ガイド・バリアフリー字幕制作および作品の上映  短編ドキュメンタリー映画および長編の劇映画の音声ガイド・字幕の制作を行い、一般向け上映会を開催した。また、佐賀幕末維新博のメモリアル上映映像の音声ガイド監修、佐賀県県民協働課さがすたいる映像への音声ガイドとバリアフリー字幕の監修も依頼を受け行った。 (3)コロナ禍での活動  県内各地から集まる「みないろ会」メンバーと、感染対策をしながら、リモートでの活動を続けた。視覚障害や聴覚障害のある会員へのしっかりした情報保障のもと、リモートでも活動できるよう機器を整備した。 【今後の展望】 「みないろ会」は、年齢も仕事も性別も障害のあるなしも関係なく、バリアフリー映画製作を通じて集まった様々なメンバーで構成されており、これまでの活動を通して会員相互に絆を深めてきた。今後も県内で上映されるバリアフリー映画の本数を増やし、誰もが気兼ねなくいつでも映画を楽しめる環境が広がっていくことを期待する。 43 視覚障がい者に対する文化施設アクセシビリティ向上の取組 ○岡島 喜謙 1,2)、荒川 裕子 3)、長谷川 佳子 4)、廣瀬 まい 5)、山口 菜摘 6) 1)羽二重ねっと、2)福井県立盲学校、3)福井芸術・文化フォーラム、4)福井市社会福祉協議会、5)福井大学国際地域学科、6)福井市自然史博物館分館(セーレンプラネット) 【はじめに】視覚障がい者が文化施設を利用する際には、まだ多くの社会的バリアが存在している。しかし近年、徐々にではあるが、福井県においてそれらを解消するための取組が始まっている。今回はこれまでの活動の経緯を報告する。 【活動概要】視覚障がい者に対する文化施設のアクセシビリティ向上に向け、2019年6月に「視覚や聴覚に障害のある人が文化施設に安心して来られるためのアクセシビリティ研修」を開催した。この研修をきっかけとして、参加者である福井市内の博物館職員の協力を得て、様々な取組を始めた。例えば、同じく研修会に参加した大学生が、研究テーマとして「触って、匂って、宇宙を知ろう」をテーマに、宇宙の展示室ガイド付きミニツアーを行った。また遠足で来館した盲学校の生徒が見えなくても楽しめるよう、音声によるより詳しい説明を加えたり、星を拡大表示したりするなど投影に工夫を加えたプラネタリウム鑑賞を行った。さらに、この活動を広めるために、高校生を対象とした「文化・情報のバリアフリーを学ぶ」ボランティア講座を開催した。 これらの活動を通し、文化施設におけるアクセシビリティの改善を徐々にすすめている。 【まとめ】この活動に協力する施設はまだ少ないのが現状である。また、美術館や博物館、演劇等における視覚障がい者に対するアクセシビリティ改善の取組が全国的に始まってはいるものの、いまだ十分とは言えない。 今後もこの活動を通して、視覚障がい者がより文化施設を利用しやすい環境を整える方策を講じていきたい。 44 視覚障害者スキーの現状 プロボノと連携した広報ビデオの作成を通して ○矢部 健三 1)、市川 健太 2)、太田 充咲 2)、清宮 幸子 2)、桐木 淳二 3)、櫻井 ゆう 3)、伏見 和真 3)、中山 雄介 4)、河村 暁子 5)、屋敷 篤子 5) 1)神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム、2)かながわブラインドスキークラブ、3)I&S BBDO、4)スイフト、5)東京ボランティア・市民活動センター 【緒言】かながわブラインドスキークラブ(以下KBSC)は、視覚障害者と晴眼者が共にスキーを楽しむために、1985年に結成した団体である。しかし、視覚障害スキーヤー(ブラインド、以下B)と共に滑る晴眼スキーヤー(パートナー、以下P)は慢性的に不足している。そこで、Pの募集を目的に、広報ビデオを作成したので報告する。 【活動】2019年5月、KBSCにビデオ作成ワーキンググループ(以下WG)を立ち上げ、広く外部の人材を募り、財政面での助成を受けることを目的に、同年8月、東京ボランティア・市民活動センター(以下TVAC)主催の東京D&Iプロジェクトに応募した。翌月に協働プログラムとして採択され、I&S BBDO(広告代理店)とスイフト(映像制作会社)の社員によるプロボノ(職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動)を受けることとなった。同年10月から12月まで、毎月1回、検討会を開催した。ビデオのコンセプトは、視覚障害者がスキーをすることを紹介するだけでなく、Bの楽しさやPの立場で感じる喜びなどを伝えられるものとした。滑走場面の映像で、PがBを誘導している音声を明瞭に収録するための工夫も検討。2020年1月、長野県野沢温泉スキー場で撮影、翌2月の仮編集試写会を経て、2月19日にはTVACにて完成報告会を開催した。  ビデオは、ブラインドスキーの紹介を目的とした短編(45秒)、P募集の呼びかけを目的とした中編(1分40秒)、そしてBの楽しさやPの喜びなどブラインドスキーの魅力を紹介する長編(4分30秒)の計3本を制作。YouTubeやFaceBookで公開した。 【考察】KBSCのWGとプロボノの人たちとの間で、忌憚のない意見交換ができたこと、晴眼者・視覚障害者それぞれの立場で意見を述べ合うことができたこと、企画・撮影・編集各段階でプロの力を借りることができたことが活動を成功に導いた重要な要素であった。   45 広島での交流型クライミングイベント活動報告について ○粟崎 宏文 1)、佐藤 建 2)、上原 知子 3)、石田 由美 1)、奈良井 章人 3,4) 1)呉医療センター 眼科、2)クライムセンターCERO、3)奈良井眼科、4)広島大学病院 眼科 【緒言】国内に視覚障害者スポーツは様々あり、希望者には協会やサークルを紹介することでQOL向上につながることがある。今回は広島で行われているクライミングイベント(もみじモンキー)について活動報告する。 【活動提示】NPO法人モンキーマジックが全国に広げるクライミングイベントの一つとして、2006年に広島でイベントを立ち上げた。しかし、当時、広島での参加者は視覚障害を対象とした小学生のみで人数が少なく、継続できずに断念した。そこで今度は地方でのイベントを継続できるために、障害の有無や年齢などの違いに関係なく全員が参加できるかたちとして、2017年10月にもみじモンキーを旗揚げした。より多くの人に参加してもらうため、広島を拠点とした生涯学習を推進するNPO法人の広島ジン大学が主催し、クライミング体験・座学・懇親会の3部を障害の有無を問わず約20名の参加で行った。2021年1月現在、第35回まで継続している。イベントを行うクライムセンターCEROは西日本最大規模のボルダリングやリードクライミングができる施設である。スタッフとして日本パラクライミング協会会長を経験した人が直接指導し、障害のある人はより楽しくクライミングを体験することができる。経験豊富な人も多数参加されるため、初心者から経験者まで幅広く、そして楽しみながらクライミングスキルを向上することができる。イベントの平均参加者数は約15名、内訳として晴眼者76%・障害者24%、障害部位は視覚91%・その他9%(発達障害、感覚障害、下肢欠損)となっている。 【考察】今後は、スポーツの社会的な意義と価値をより多くの人に知ってもらうため、障害を問わず新規に参加される人をさらに増やしていく必要がある。スポーツを楽しむことで交流を深め新たな連携を促進し、心身両面にわたる健康の増進に効果があることを伝えていきたい。 46 チャレンジド・ヨガ研修部の活動報告 共に生きる社会を目指す取り組み ○澤崎 弘美 1,2)、高平 千世 2,3)、崎元 宏美 2,4)、城谷 直人 2,5)、佐藤 友見 2,6)、天野 陽慈 2) 1)いけがみ眼科整形外科、2)一般社団法人 チャレンジド・ヨガ、3)国立障害者リハビリテーションセンター、4)スマイルスペース、5)江戸川区視覚障害者協会、6)合同会社佐藤笑顔瑜伽道場 【緒言】チャレンジド・ヨガでは、視覚障害のある参加者のヨガの動きをサポートしたり移動の際に誘導したりするサポーターが活躍しており、彼らが視覚障害者の良き理解者として育成され、地域全体にその輪が広がるといった現象が確認されている。そうした理解の輪の広がりは定期クラスやイベントクラスの中で自然に発生するものの他、勉強会という形でも意図的効果的に生み出されている。  過去に行われたチャレンジド・ヨガの勉強会についてまとめ、その意義について考察する。 【活動提示】チャレンジド・ヨガの勉強会は、新クラス立ち上げの際に行うもの、既存クラスのブラッシュアップ目的のもの、ヨガを通じて視覚障害の理解を広める対外的なもの等がある。いずれも、視覚障害の基礎知識、視覚障害者への接し方と誘導の実習、チャレンジド・ヨガの体験実習、視覚障害当事者のお話、の4部構成を基本とする。  勉強会の内容は、誘導やヨガの実習ではシミュレーションゴーグル等で見えにくさを体験したり、参加者同士が気づきを共有する中で学びを深められるよう工夫したりするなど、体験と気づきを重視している。また、当事者を含むグループワークを取り入れ、常に当事者不在にならぬよう心がけている。  最近では、同行援護従事者研修会等に参加し、自ら学ぶサポーターが現れている。チャレンジド・ヨガはこのような自主的な学びに対しても補助金を出すなど積極的に支援している。 【考察】勉強会は、チャレンジド・ヨガの「社会の障害に対する意識の変化を促す活動」の大きな柱であり、共に生きる社会を作るヒントをヨガというツールを使って伝えるものである。 社会の障害者に対する意識を変え、障害者を取り巻く環境を整えることは、何よりの視覚リハビリテーションである。チャレンジド・ヨガは、医療福祉関係や運動指導者等の幅広い立場の人間と、障害者・健常者が混ざり合い、独自の形で視覚障害者の QOL 向上に寄与できると考える。 【Ⅶ オンラインの取り組み(47~52)】 47 遠隔ロービジョン相談後の報告メールを材料としたテキストマイニング解析 ○仲泊 聡1)、高橋 政代1)、井村 妙子1)、渡辺 哲也2)、楠見 孝3)、平見 恭彦4)、横田 聡4)、太田 幸子4)、田中 桂子4)、小田 浩一5)、高橋 あおい5)、三宅 琢6)、山田 千佳子6)、奈良井 章人7)、藤田 利恵7)、田中 武志8)、久保 寛之9)、奈良 里紗10)、常 瑠里子11)、渡辺 文治12)、斎藤 奈緒子12)、渡辺 美希12)、大内 進13)、伊東 良輔14)、長岡 雄一15)、河原 佐和子15)、久保田 真紀15)、森 一成16)、飯山 知子16)、原田 敦史17)、安山 周平17)、岡田 伸一18)、原 信哉19)、中 真也19)、林 知茂20)、 田辺 直彦21)、村上 美紀22)、工藤 幸雄23)、後藤 健市24)、姉崎 久志24)、南部 慶太24)、庄司 健25)、畑野 容子26)、引地 伽織26)、金平 景介26)、橋本 伸子27)、道面 由利香28)、篠崎 和美29)、鹿間 智子29)、宮崎 千歌30)、迫口 真由果30)、土居 智美30)、張野 正誉31)、太田垣 美貴31)、千種 浩司32)、千種 美好32)、別府 あかね33)、吉田 宗徳34)、加藤 亜紀34)、澁谷 文枝34)、松田 安世34)、大塩 彩耶加34) 1)理化学研究所、2)新潟大、3)京都大、4)神戸アイセンター病院、5)東京女子大、6)NEXT VISION、7)奈良井眼科、8)広島大、9)慈恵医大、10)視覚障がい者ライフサポート機構、11)JEWELDERURI、12)神奈川リハビリテーション病院、13)国立特別支援教育総合研究所、14)一般社団法人 ぱるむ、15)東京都視覚障害者生活支援センター、16)神戸アイライト協会、17)堺市立健康福祉プラザ視覚聴覚障害者センター、18)元障害者職業総合センター、19)はら眼科、20)おおたけ眼科 小手指医院、21)田辺眼科、22)むらかみ眼科、23)青森県視覚障害者情報センター、24)北海点字図書館、25)島根ライトハウス、26)高知県身体障害者連合会、27)しらお眼科、28)横浜訓盲院生活訓練センター、29)東京女子医科大、30)兵庫県立尼崎総合医療センター、31)はりの眼科、32)ちぐさ眼科、33)町田眼科、34)名古屋市大病院アイセンター 【目的】遠隔ロービジョン相談後の反省メールで交わされた話題から、事業と視覚障害者の特性を概観する。 【対象と方法】我々は、AMED研究事業「ICTを活用した寡少専門家による地域・在宅ロービジョンケア」で、2017年1月から2019年9月まで110件の遠隔ロービジョン相談を行った。このうち、システムが成熟した10ヶ月目となる2017年10月から2019年9月までの24ヶ月間に行われた88件の相談終了後に、参加した31名の支援者間で交わされた反省メール549通に対して、KH Corderによるテキストマイニングを行った。 【結果】全メール3579文から94742語が抽出され、このうち34670語が解析に使用された。これらの語は、多次元尺度法および共起ネットワークにより相談、通信、身障手帳、訓練、視覚補助具等のクラスターに分類できた。また、65歳を境界とする年齢と性別で4群に分けた場合の群特性を対応分析および共起ネットワークで解析したところ、就労関連の話題は65歳未満の男性で強い関連を示した。また、主病名では、緑内障と白杖、網膜色素変性と情報、糖尿病網膜症と音声、加齢黄斑変性とパソコン、変性近視と手帳といった関連を認めた。同様に調査時期を半年ごとの4期に分けて比較すると、前2期では通信関連の話題が多く、後2期では相談の話題になり、徐々に遠隔相談の技術が成熟し、内容が充実していった様子が示唆された。そして、調査に対する不安・不快を5段階評価した結果との関連では、高評価であったものは多くの情報が提供され、低評価では通信が途切れた場合であることが示唆された。 【考察】本結果は、関わった支援者とその背景にいる視覚障害当事者の興味の対象を反映すると考えられる。医療・福祉現場をフィールドとする日誌的テキストを題材としてテキストマイニングを行うことで、事業と利用者に関する概要を俯瞰できることが示された。 48 リモートでの見えない 見えにくい方のためのiPhone・ iPad教室の試み ○加茂 純子 1)、濱田 悠太 2)、酒井 弘充 3)、兜山 高宏 4) 1)甲府共立病院、2)甲府共立診療所、3)山梨県立盲学校、4)甲府共立病院組織課 【目的】コロナ禍で県立盲学校の教諭が病院に出向くことができないため、病院友の会サークル会場に集まった視覚障害者に、iPhone、iPadの使用法をZoomで伝達できるかを試みた。 【方法】全6回(Siri、予定を作る、予定を知る、拡大鏡、Wi-Fi設定方法、seeing AI、voiceoverでアプリを探しページを開く、Z動作、Uni-Voice)で行った。Zoomを用いて盲学校より講師に30分実演していただいた後に接続を切り、会場にいるスタッフと共に患者が講演の内容を実際に試した。さらに復習できるようにYouTubeで配信をした。終了後に参加者とスタッフ双方にアンケート調査(1.どこで知ったか、2.有益であったか、3.今後も続けてほしいか、4.どのような改善点が必要か、5.自由感想)を行った。 【結果】参加者はスタッフ・患者を合わせ延べ39名(平均年齢69±15 歳(55~89歳)、患者の平均Functional Acuity Score 45 ±51(0~100))であった。アンケートの回答者は5名で、回答は以下の通りであった。 1.眼科外来3名、友の会新聞1名、Facebook1名。2.有益であった4名。3続けてほしい5名。4. 「Apple店舗がない地域では携帯電話販売店でiPhone・iPadの基本的な講座を無料で開設してほしい」。5.「大変有意義なセミナー」「ロービジョンケアの一つとして、iPhone・iPadの使い方がわかり、助かった」「都合の良い時にYouTubeをみることができ、ありがたかった」 「(スタッフより)インターネットの概念もない参加者がいるため、もう少し基礎から教える必要を感じた」。 【考察】多くの参加者にとって勉強になったが、個々で見え方も知識もまちまちなので、できれば一対一で指導した方がよい。一人ずつスタッフが側につきながら、講師による遠隔指導を受講するか、遠隔指導を受けるにも、そもそもの入力方法がわからない人がいるので、基本操作を教える役割として、販売店にも見えにくい方のためのiPhone・iPad教室を開催してもらいたい。 49 コロナ禍におけるオンライン訓練の取り組み ○山本 友里瑛、原田 敦史、安山 周平 堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター 【目的】新型コロナウイルスにより、堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センターがある大阪府では、二度にわたって緊急事態宣言が発令された。宣言中は各種事業に影響があり、相談・訓練数も減少した。サービス提供を継続するため、2020年4月より新たにオンライン訓練を開始したので報告する。 【実施結果】一度目の緊急事態宣言期間(2020年4月~5月)は堺市からの要請により、緊急性が高いものを除き訓練を休止した。そのため、実施件数が前年度と比べて大幅に減少した(4月:前年比約6割減、5月:前年比約8割減)。二度目の期間(2021年2月)は市からの制限要請がなかったため、実施件数に大きな影響はなかった。2020年度のオンライン訓練実施件数は2020年4月~2021年2月末で70件(実人数8名)、利用者の年齢層は40歳代半ば~70歳代前半だった。訓練科目は点字、パソコン、iPhone操作等で、訓練方法はスマートフォンではLINE通話、パソコンではSkype、Zoomであった。 【まとめ】オンライン訓練の件数は当初それほど多くなく、二度目の緊急事態宣言発令が現実視され始めた1月から増加した。これは、宣言発令で再び訓練を受けられなくなるのではないかという利用者の不安と、一方でオンラインによる行事等の増加により利用者の心理的抵抗が少なくなったこと等が影響したと考える。   今回、オンライン訓練を実施した利用者は、対面での訓練には慣れていたものの、オンライン訓練は初めてであった。開始当初はノウハウがなかったため、お互いに試行錯誤しながらの実施であったが、オンライン環境が整っていればそれほど難しくなく実施可能であることが分かった。   新型コロナウイルス流行収束後も、訓練手段の一つとして期待できると考える。 50 コロナ禍におけるICTを活用した相談・情報提供 ○山田 千佳子 1)、和田 浩一 1)、和多田 万里子 1)、三宅 琢 1,2)、高橋 政代 1,3)、栗本 康夫 1,3)、仲泊 聡 1,3,4) 1)NEXT VISION、2)東京医科大学、3)神戸アイセンター病院、4)理化学研究所 【目的】視覚障害者にとって相談や情報を得る機会が失われることは、生活の質の低下を意味する。しかし、COVID-19の感染拡大により、緊急事態宣言下では人と人の接触を減らす、外出制限、リモートワークの推奨など、急激な生活様式の変化が求められ、対面による相談や情報提供を行う機会が激減した。そこで、神戸アイセンター・ビジョンパークでは、感染拡大防止対策及び職員の安全確保と同時に相談・情報提供を行うことが急務であると考え、リモートで業務を行なえるよう、ICTを活用した相談システムの構築に取り組んだ。 【方法】マイク・カメラ付パソコン(以下、PC)、スキャナー、プリンター、電話、配布資料用引き出し、Google Chromeリモートデスクトップ、Google Meet、Zoom、ボイスワープといった機器・サービスを組み合わせて使用。PCを受付(1か所)と相談を受ける場所(2か所)に分けて設置し、遠隔操作で相談・情報提供を行った。視覚障害者は、ビジョンパークでは相談用PCで、自宅など外部からは所有するスマートホン、PC、電話等を用いて、ビジョンパーク職員の他、外部の支援機関等と接続した。 【結果】ビジョンパークが休館し、職員が自宅等でリモートワークを実施していた期間は、受付のPC画面から職員が顔出しと支援できることがないか声がけを行うことで、2020年度は473件の相談・情報提供を実施できた。 【考察】特別なシステムを開発しなくても、既存の機器・サービスを活用することで経済的、時間的にも負担が少なく、意欲さえあれば誰でも相談・情報提供に取り組める。また、このシステムは感染対策としてだけでなく、台風や地震等の自然災害時に職員が出勤できない場合等にも活用できる。今後、さらにデジタル化が進み、いつでもどこからでも簡単にオンライン相談、ロービジョンケアが受けられることが望まれる。 51 当事者、支援者、行政職員を対象にしたオンラインによる情報提供の有用性について ○金井 政紀、堀江 智子、奥澤 優花、安保 美佳、池田 義教 公益財団法人 日本盲導犬協会 【目的】弊協会では盲導犬取得の情報提供の方法として、集合形式での体験歩行会をこれまで行ってきたが、2020年度はコロナウイルス感染予防のため、オンラインによるセミナーを視覚障害者向けに7月から開始した。また、視覚障害者から「情報が届かない」という声があり、情報提供窓口の一つである行政職員向けに、行政からの情報提供方法についてのオンラインセミナーを企画した。この対象の異なる2つのオンラインセミナーを通じて「情報を届ける」ためのアプローチ方法について考察する。 【方法】 (1) 当事者・支援者対象セミナー:内容は盲導犬事業と盲導犬ユーザー体験談など。土日開催で計9回、開催時間90分。各種MLとHPで告知し、定員25名程度(当事者15名、支援者10名)。 (2)行政職員対象セミナー:内容は盲導犬事業、行政からの情報提供における課題、盲導犬についての社会理解など。平日開催(3月のみ日曜)で計4回、開催時間60分。郵送による案内で告知し、定員80名程度。 【結果】 (1) 当事者参加人数は99名、居住地域は25都道府県、zoom事前操作練習をのべ56名に実施した。支援者参加人数は39名、職業内訳は眼科医、視能訓練士、相談支援員などであった。 (2) のべ83団体(うち63自治体)、約130名が参加した。 【考察】2019年度の盲導犬体験歩行会実績は弊協会の4訓練センターで合計72回、参加者数511名であった。今回のセミナーでは当事者への情報提供人数は約81%減少したが、参加者アンケートでは「しっかり聞ける」「オンラインだから参加しやすかった」という声や、「オンラインが得意でない人への事前サポートがあり助かった」という声も少なくなかった。一方で、デバイス機器の未所持や操作困難のため参加できない人や、実際の体験でしか味わうことのできない部分のフォローは重要と考える。行政職員向けセミナーでは、これまでの現場の課題内容も伝えられ、行政職員との連携強化、今後の新たなニーズの発見ができた。オンラインは、体験歩行以外の情報提供の場、そして理解を得る方法として有効と考える。 52 オンライン形式に移行して考える当事者団体の活動の意義 ○石原 純子、大橋 正彦、神田 信、松坂 治男、重田 雅敏、長谷川 晋、松尾 牧子、藤田 善久、的場 孝至、中村 太一、大岡 義博、谷田 光一、工藤 正一、熊懐 敬 認定NPO法人 タートル 【目的】視覚障害者の就労支援を行う認定NPO法人タートル(以下、タートル)は、発足以来、当事者間の情報交換や交流の場としてサロンや勉強会、眼科医を交えた就労相談会を対面で実施してきた。2020年はコロナ感染症の広がりにより、それまでの活動スタイルが継続困難となり、新たな体制を構築する必要に迫られた。世界的にも導入が進められたオンライン形式に移行し、サロンや相談会を開始することとなった。当事者団体におけるオンライン形式の活動意義について考察する。 【対象と方法】開始当初は、安心して発言できる場として会員およびそれに準ずる者を対象とし、メーリングリストで呼びかけ参加を促した。当事者がホストとなり、接続テストに限定した日程を複数回設け、個別に接続確認した。また、スタッフ間の理解を深めるための勉強会も行った。 【結果】オンラインへの移行直後は、スタッフも参加者も機器の操作や接続に慣れず、接続に時間を要したが、回を重ねるごとに慣れ、参加者個人で自由に参加が可能になった。これまでは、タートルの拠点のある地域や首都圏に限定した活動であったが、オンライン移行後は、北海道から九州まで全国の会員が参加し活発な交流が可能となり、参加者からも好評をえている。オンライン形式に慣れ、様々なタイプのオンラインイベントや眼科医を交えた相談会も可能になった。 【考察】直接対面して交流できないもどかしさはあるものの、自身の都合に合わせて全国各地から気軽に参加でき、新たな出会いや気づき、情報交換の場となった。身近に当事者や相談する場がない者にとって、孤立を防ぎ安心を得る機会となっている。また、視覚障害者の負担となる移動の問題も軽減できている一方、視覚障害者は新しいことを取り入れるのが苦手な側面があり、今後オンライン形式による利点を生かし、様々な立場にある当事者が参加できるような取り組みを考えていきたい。 【Ⅷ 連携(53~57)】 53 高次脳機能障害と視覚障害の重複障害者への視覚リハの一例 ○松枝 孝志 名古屋市総合リハビリテーションセンター 視覚支援課 【目的】高次脳機能障害と視覚障害が合併した場合、学習能力の低下、記憶能力の低下、失行など認知的な課題と視機能の低下による課題が同時に現れるため、支援において多面的なアプローチが必要となる。今回は脳神経疾患の後遺症により高次脳機能障害と視覚障害を併発した事例を通じて、高次脳機能障害と視覚障害を併せ持つ人に対する支援の知見を得る。 【症例】脳神経疾患により高次脳機能障害と視覚障害(視力は左右0)がある。高次脳機能障害としては失認・失行、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、空間認知の障害がみられた。利用前は入院していたためADLの自立度は低く、全介助に近い状態であった。 【方法】本人の希望や高次脳機能障害の評価をもとに、生活動作の自立度の向上、余暇の獲得を目標とした。入所施設における生活訓練、理学療法士・作業療法士による生活動作訓練、視覚リハ訓練を8か月間実施した。視覚リハ訓練では、リアルタイムフィードバックや繰り返しによって記憶の定着を図ること、音声や触知覚の手掛かりを活用すること、入所施設の生活場面で練習できることを意識して行った。支援に当たっては随時スタッフ間で情報共有を行い、役割分担を明確にした。 【結果】8か月間の訓練により、施設内の一部の場所で白杖を使わずに壁を伝う移動を習得し、日常生活動作では洗顔や髭剃りなどが可能となった。余暇活動ではデイジー再生機での読書やiPhoneの電話操作が可能となった。訓練終了後は本人の希望により他の施設に入所し、引き続き視覚リハを受けることができる体制を整えた。 【考察】今回の事例では、多くの専門職がそれぞれの観点からアセスメントを行い、情報を支援員で共有し、次の支援につなげることで、最終的に希望する生活を実現することができた。高次脳機能障害と視覚障害の重複障害者への支援では、多角的な視点からクライアントに関わり総合的な支援を実施することが重要である。 54 眼科が起点となり福祉、教育、就労機関の地域連携から自立に向けて歩み始めた一症例 ○長尾 長彦 1)、大月 洋 1,2)、松本 泰明 3)、岸 哲志 4)、片野田 勝義 5)、大島 美栄子 6) 1)くらしき健康福祉プラザ 視能訓練室、2)岡山済生会総合病院眼科、3)松本眼科医院、4)新潟医療福祉大学、岡山ビジョン・リハビリテーションインストラクター協会、5)岡山盲学校、6)倉敷障がい者就業・生活支援センター 【緒言】網膜色素変性症の高校生が卒業後に就労困難となり、眼科主治医から紹介された地域の福祉機関が就労、教育機関と連携して継続的な相談支援をおこない、自立に向けての歩みが可能となった症例を報告する。 【症例提示】就労、および進学支援をするために、眼科主治医から福祉機関のロービジョン相談支援に紹介があり、生活上の困難さを聞き取り、眼科評価を元に保有視覚の活用方法の相談と本人や家族へ生活上の工夫があることを伝え、就労や進路の選択肢について情報提供した。移動の困難については歩行訓練士が視覚以外の感覚を活用した方法についての情報提供や体験を行い、求人情報や職業訓練については倉敷障がい者就業・生活支援センターが担当した。担当者には当施設に出向いてもらい、生活での困難を軽減できる方法やロービジョン者の就労状況について情報提供を行った。視覚障害児・者相談センターの生活相談支援については、実際の生活場面がある寄宿舎で情報提供を行うために岡山盲学校で実施し、進路先の1つとして理療科の見学を実施した。 【考察】眼科が起点となることで、眼科的所見や予後を理解し、将来の自立に向けての積極的な相談支援を適切なタイミングで始めることができたと考える。加えて、地域の福祉機関が関係機関とのコーディネータとしての役割を担うことができたが、基礎から積み上げる自立訓練を受けられるサービスが地域にないために、安全・安心な移動、生活上の困難克服のための自立訓練について課題が残った。 【まとめ】視覚障害リハビリテーションを眼科から始めることで、福祉、教育、就労の各分野が連携することで、進学を支援することができた網膜色素変性の一例を報告した。 55 京都ロービジョンネットワークの相談活動から見えてきたもの ○鈴木 佳代子 1)、中路 裕 2)、高間 恵子 1)、沖田 友子 3) 1)京都府視覚障害者協会、2)京都府眼科医会、3)京都ライトハウス 【目的】2017年4月の京都ロービジョンネットワーク(以下、ネットワーク)設立後、医療から福祉に紹介された相談内容から見えてきたロービジョンケアの課題を探る。 【方法】2018年4月にリーフレット「さくら」を合計27,000枚(第1版~第4版)作成し、眼科、病院の医療相談員、薬局、府内自治体(福祉課・保健所)、教育機関、地域包括支援センター、就労支援機関などに配布した。ネットワークの周知を図るために、医療関係者向け研修会開催(3回)、眼科医会理事会への活動報告、各種研究会等での発表および講演、府内全眼科へのアンケート実施(2回)などを行った。相談の際に福祉側が必要とする医療情報を簡潔に記載できるようにした「支援依頼書」を作成し、眼科からの患者紹介時に活用した。 【結果】2018年度264件、2019年度254件(府内217件、府外37件)の相談があった。2019年度の相談内容は、ロービジョン相談120件、生活相談200件、訓練等25件、就労相談15件、その他23件であった(複数回答)。ネットワークへの紹介をきっかけとした障害者手帳申請や等級変更が61件、障害年金申請が26件あった。患者をネットワークに紹介した医療機関実数は、2018年4月から2020年3月まで83機関(京都府外10件)であった。障害年金相談の増加を受け、構成団体に「障害年金支援ネットワーク」が加わった。 【考察】ネットワークの活動は、医療から福祉につなぐきっかけとして非常に有効である。相談件数の増加により相談体制の強化が急務であり、そのためには財政的保障が求められる。幅広い相談内容に対応できる相談員のレベルアップと共に、各種専門家との連携が必要である。ロービジョンケア紹介リーフレット未発行の近隣県からの相談が増えており、ロービジョン者の在住地における相談体制の確立が望まれる。 56 世田谷区における見えない・見えにくい方への公民連携による支援システム整備 ○木村 仁美 世田谷区立保健センター 専門相談課 【緒言】世田谷区は総合福祉センター(以下、総福)を1989年度に開設し、地域の見えない・見えにくい方(以下、当事者)に対する相談や訓練を展開してきた。しかし、2018年度に総福を閉鎖し、2019年度より相談事業を区立保健センター専門相談課(以下、専門相談課)に、障害者総合支援法に基づく自立訓練事業を新設の民間事業所に機能移転した。受け入れ先は変わったが、地域で相談から自立訓練までのサービスが受けられることに変わりはない。 【専門相談課の事業概要】視覚障害分野の担当職員1名を含む各種リハスタッフが在籍する。当事者、家族、支援者、行政からの相談を来所や訪問、電話、メールなどで対応する。訓練要素の濃い相談もあるが、自立訓練の対象者には民間事業所の利用を促している。 【結果】機能移転当初は「施設閉鎖」という文句が独り歩きし、当事者をはじめとする関係者間に「サービス消失」との誤解が流布してしまった。特に、専門相談課では自立訓練を行わないことから「区内で訓練できない」と大きな誤解を受けた。不安を抱いた当事者も多く、2年経過した現在も周知しきれていない。 【考察】総福の機能は概ね専門相談課に移転され、実態は名称変更に等しい。しかし、当事者は「訓練」を広義に捉えており、専門相談課で行う訓練要素の濃い「相談」(例:新たな目的地までの環境案内・ICT機器導入時の基本練習など、数回程度で終結する内容)も含めている。それが機能移転の内容をわかりづらくし、「施設閉鎖」という言葉のインパクトも加わり、当事者を混乱させたと考える。こうした訓練要素の濃い「相談」は圧倒的に多く、ニーズが高い。今回は物理的な移転もあり、混乱に拍車をかけている。当事者が引き続き、地域で安心した生活が営めるよう、総福で築いた関連機関とのネットワークを活用し、専門相談課が地域のハブとして機能する必要がある。機能を周知し、最適な社会資源の利用につなげるとともに、民間事業所の醸成を図ることも急務である。 57 福島県職員が歩行訓練士として活動開始! 1年目の事業報告 ○渡邊 純代 1)、八子 恵子 2) 1)福島県障がい者総合福祉センター、2)福島県ロービジョンネットワーク 【はじめに】福島県は訓練施設がなく、歩行訓練士不在の県の一つであった。これまで県独自事業である「在宅生活訓練」を日本盲導犬協会仙台訓練センターの訓練士に依頼し行っていたが、近年、当事者や関係団体が県に歩行訓練士確保を求めて活動をしていた。令和2年度より歩行訓練士の資格を有する職員が福島県障がい者総合福祉センター(以下、「県センター」という。)に配置され、他業務と兼任だが訓練業務に従事できるようになった。1年間の活動記録と今後の課題について考察する。 【活動提示】(1)在宅生活訓練:申込者48名(前年度33名)で、新規32名、継続16名であった。訓練総数99回(前年度39回)で、年度中に1人3回まで利用可となった(前年度までは原則1回)。(2)視覚障がい者相談会:年7回県内各地区で眼科医、相談員、教員、訓練士が一同に介し、医学的判定や生活・就労に係る相談会を行った。(3)ロービジョン(低視覚)支援体験講習会:年1回、県センター職員等が地域に赴き開催。当事者家族や支援者に対し、ニーズに合った講義や疑似体験等を行った。(4)病院カンファレンスへの参加:脳腫瘍摘出の後遺症により急激に視力低下した患者に視覚リハを導入し、医療スタッフに支援方法の助言等を行った。(5)福島県ロービジョンネットワークへの参加:令和3年3月28日にzoom講習会を開催することを目指し、初めて体験する当事者への指導や、事前練習会の支援を行った。(6)一般啓発:マスコミを活用し、歩行訓練士の存在や必要性について啓発拡大を行った。 【考察】県に歩行訓練士が配置された結果、視覚リハに関心を持つ当事者や関係者が増え、訓練の申込者増に繋がったと思われる。しかし、未だに一般的に浸透しているとは言いがたいため、更なる啓発が必要である。また、歩行訓練士が1名で、かつ他業務と兼任している現状では在宅生活訓練の対応に限界があるため、専任化や歩行訓練士の資格を有する職員の育成等が今後の課題である。 【Ⅸ その他(58~61)】 58 京都ライトハウス鳥居寮における就労対策の試み ○石川 佳子、青木 一憲、久保 弘司 京都ライトハウス鳥居寮 【目的】京都ライトハウス鳥居寮は視覚障害の人の自立と社会復帰を支援する施設である。 入所・通所での機能訓練と府市内訪問訓練を行う。2019年度の入通所利用者72名のうち33名と、訪問利用者62名のうち2名の希望者に就労対策としての支援を試み、成果が得られたので報告する。 【方法】2019年度対象者は35名で、求職者21名、在職者12名、就学中2名であった。京都ジョブパークの協力により出張セミナーを11回実施し、制度、マナー、対人スキル、自己分析、履歴書作成、面接対策などの情報提供をした。日常生活訓練に加え、就労対策として点字・PCによるメモ活用、短期記憶、履歴書・添え状作成、公務員小論文・筆記試験、模擬面接、アビリンピック講座、オフィス基礎、独居を想定したADL・歩行などの訓練を実施した。 【結果】ワープロ検定4級から準2級に相当するスキルの獲得や、業務指示メモとの復唱確認が可能となった。2021年3月現在採用状況は、一般職採用3名、三療職採用2名、公務員採用4名、福祉就労採用7名、三療進学3名、継続雇用8名、就学2名、訓練継続3名、中断・未定3名であった。2019年度アビリンピック京都大会で金メダル1個、銀メダル2個を獲得した。  事例を報告する。事例1:20歳代男性。両眼視力0.03、中心暗点。2019年度の職場実習でPCスキル、短期記憶、対人スキルが評価され、介護施設に就職。就労前後に雇用側の相談にも対応した。事例2:20歳代女性、全盲。盲学校保健理療科卒業後に訓練開始。三療資格取得対策、一人暮らし準備、求人ごとの面接対策を行い、実習後、三療就労。 【考察】職業訓練校ではない当施設において提供できる支援は基礎的な内容であるが、事務業務を想定した課題を提示することで職業スキルの基礎の獲得は可能になる。求職者、在職者の困りごとは日常生活から就労場面まで多様であり、それぞれの環境下で柔軟な支援が求められている。訓練中の実習で就労相談支援機関と連携するなど、視覚障害者就労の啓発と促進を図ることが今後の課題である。 59 障害者手帳所持者における国連国際障害統計ワシントングループ会議の指標の選択状況 ○北村 弥生 元国立障害者リハビリテーションセンター研究所、長野保健医療大学 【目的】本研究では、国連国際障害統計のワシントングループ会議(以下、WG)が策定した指標が日本の障害者手帳所持者の障害種別および等級とどのような関係にあるかを明らかにする。 【方法】長野県飯山市(人口約2万人)において、障害者手帳所持者1,221名(身体867名、療育154名、精神200名)を対象に、郵送法による質問紙調査を実施した。重複障害者には、調査票を重複して発送することを避けるために、身体障害、知的障害の順に優先して発送した。589名(48.2%)から回答があり、内訳は身体407名、療育75名、精神80名、重複19名、不明8名であった。障害種別および等級ごとに、WGの短い質問群全6項目(WG-SS)について、4つの選択肢(全くできない、とても苦労する、多少苦労する、苦労はない)のうち上位2段階の選択者数および比率を集計した。 【結果】WG-SS6項目のどれかで上位2段階を選択した比率は、重複障害者では5割を超えたが、3障害の全体では約4割にとどまり、精神保健福祉手帳と内部障害での身体障害者手帳のみの所持者では約2割、療育手帳のみの所持者では約1割であった。「眼鏡を使用しても見ること(の困難さ)」については、視覚障害での身体障害者手帳所持者全体(24名)の79.2%、同1級の80.0%、同2級の61.5%、同3級および4級の100%が上位2段階を選択した。一方、「補聴器を使用しても聴きとること(の困難さ)」については、聴覚障害での身体障害者手帳所持者全体(19名)の52.6%、同2級の25.0%、同3級および4級の50%、同6級の60%が上位2段階を選択した。 【考察】対象者数を増やした検証は必要であるが、手帳の等級とWG-SSの障害程度が合致しなかった理由は、機能低下を「苦労」と考えるかどうかは主観によるものであり、例えば、見ることを音声で代替えするなどの方法を持っていたり、先天盲で見ることを知らなかったりすれば感じにくいためと推測された。 60 第三回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール開催報告 ○神田 信 1)、今富 昭二 1)、青山 ゆう子 1)、影山 正樹 1)、北村 紀子 1)、仁科 洋一郎 1)、古志野 瑞城 2) 1)株式会社 三城、2)株式会社 三城ホールディングス 【開催目的】視覚障害当事者だけでなく、それぞれの立場から、川柳を通して視覚障害を表現し、互いの理解と娯楽を提供する。また、広く一般に視覚障害についての理解を促し、啓発する。 【開催概要】募集期間:2020年12月8日~2021年1月31日 募集部門:(1)見えにくさを感じている方部門:ロービジョン・ブラインド・色覚障害・盲ろう・眼瞼痙攣等の当事者 (2)メディカル・トレーナー部門:医療関係者、訓練施設職員等 (3)サポーター部門:家族、友人、職場関係者、ヘルパー、一般等 募集方法:視覚障害関係を中心に多くの団体、個人を通じて告知し、インターネットの特設サイトを通じて募集した。 選考方法:応募者の中から、最優秀賞、NEXT VISION賞、各部門賞、入選100句を選考した。 【結果】応募総数2,610句。過去最多となり、第一回からの累計が6,000句を超えた。応募者の6割を視覚障害当事者が占めるのはこれまでと変わらないが、今回はサポーター部門の応募が1,036句あり、そのうち、家族、友人等身近に視覚障害者がいない一般の人からの視覚障害者を思いやる川柳が719句寄せられたことを特筆しておく。   選考結果を2021年3月29日に特設サイトで発表した。最優秀賞は"心の目開くと見える別世界"、後援のNEXT VISION賞は"見えるふりやめて気持ちが楽になり"に決定し、それぞれロービジョンの当事者が受賞した。   今回は、鉄道ホームや信号機、外出先でのトイレについての定番の困りごとに加え、コロナ禍における視覚障害を取り巻く生活を風刺した句が多数集まった。マスクについてや、誘導・点字をはじめとした触る文化における非接触による影響を詠んだ句、オンライン等の新しい生活様式を前向きに捉えた句、セルフレジの使いにくさを詠んだ句もあった。当事者からは、コロナ禍における支援への感謝、支援者からは思いやりのある行動についての句が寄せられた。 【まとめ】川柳を通じて、視覚障害を取り巻くその時々の環境を垣間見ることができる。 61 高齢視覚障害者リハビリテーション事例研究分科会活動報告(第3報) ○吉野 由美子 1)、阿部 直子 2)、古橋 友則 3)、良久 万里子 4)、関谷 香織 5) 1)視覚障害リハビリテーション協会 高齢視覚障害者リハビリテーション事例研究分科会、2)仙台市視覚障害者支援センター アイサポート仙台、3)NPO法人 六星 ウイズ蜆塚、4)鹿児島県視聴覚障害者情報センター、5)一般社団法人 ソラティオ相談支援センターあらかわ 【はじめに】当分科会が2019年10月19・20日の2日間で行った第2回勉強会の実施内容、成果、今後の活動予定について報告する。 【勉強会の内容】視覚障害者が65歳以上(特定疾患の人は40歳以上)になると、障害者福祉制度から介護保険制度に切り替わり、介護保険と同類の障害福祉サービスが受けられなくなる「65歳問題」について、制度的な根拠、現場の実態などを関係者から講義してもらい、出席者が正確な知識を共有した上で今後の方向性を話し合った。   講義テーマは、「東京都S区の主任ケアマネジャー調査の概要まとめについて」「介護保険のサービスと障害者総合支援法のサービスを併用して生活している事例報告」「介護保険で運営されているデイサービス施設を利用する当事者の事例報告」「高齢者の介護現場において適切な視機能評価が行われていない」「65歳問題を正確に理解するために、介護保険制度と障害者総合支援法の違いについて学ぶ」であった。 【講義と話し合いから見えてきたこと】  (1)ケアマネジャーは、特に歩行訓練などの視覚リハについてはほとんど知らなかった。 (2)相談支援専門員も、視覚障害者を担当することは非常に少ないため経験が乏しく知識不足であると言う話であった。 (3)介護専門職者等に対し、高齢者の視機能の状態と、それに起因する行動特性等について、啓発することの重要性が分かった。 【第2回勉強会の成果】 (1)65歳問題がなぜ起こるかについての制度的な根拠について共有できた。 (2)勉強会に出席した視覚リハ専門家とケアマネジャー、理学療法士、保健師などが相互理解をすることができた。 【今後について】勉強会の各地域での開催をめざし、第3回の勉強会は、鹿児島で開催する予定である。 【Ⅹ 抄録作成支援について】 第29回視覚障害リハビリテーション研究発表大会in岡山 抄録作成委員会  視覚障害リハビリテーション研究発表大会の抄録作成支援は、「抄録の書き方と研究のルールを学んでいただく」という目的で、第21回大会から実施されてきました。  本大会でも、「抄録としての基本的要件である、目的・方法・結果・考察のような章立てた構成がなされているか」「各章のタイトルと内容にずれがなく、読者が分かりやすく理解できるような記載となっているか」「内容の有効性と800字の活用具合はどうか」「個人情報の取り扱いは適切か」「明らかな間違いや誤字脱字はないか」などの点に留意して作成支援を行いました。  大会実行委員で構成した抄録作成委員が、上記の視点に基づいて抄録を確認し、発表者にコメントさせていただきました。これにより、より良い抄録になったと思っていただければ幸いです。ご対応いただきました多くの発表者の方々に感謝を申し上げます。 【おくづけ】 第29回視覚障害リハビリテーション研究発表大会in岡山 一般演題抄録集 発行日  2021年7月4日 編集・発行 第29回視覚障害リハビリテーション研究発表大会in岡山 実行委員会 事務局  岡山市北区鹿田町2-5-1 岡山大学眼科学講座